ep10:夢じゃなかった
夕食後。
いつものようにテレビを観て
いつものようにシャワーを浴びて
いつものようにベッドに寝転がって
翌朝、僕は日の出前に目が覚めた。
いつもなら、寝起きは身体がサビついたみたいにギシギシして重いのに。
なんか、身体が軽い。
しかし、身体に違和感がある。
(……え?)
視界に入った天井は、自宅の寝室のものではない。
見慣れた白い壁紙は無く、木製の梁や羽目板が見えるアンティークな造りの天井だ。
ベッドの上で起き上がって辺りを見回すと、シンプルな机や椅子、クローゼット、隣のベッドが見える。
(……この手は、ウォルクリス?)
鈍い痛みを感じて手を見れば、マメだらけの少年の手になっている。
ベッドから出て壁にかけられた姿見に近づいてみると、明るい茶色の髪と青い瞳をもつ子供の姿が見える。
透明感のある白い肌、彫りの深い顔立ち、ロシアの子役モデルみたいな容姿をもつ美少年がウォルクリスだった。
新たな記憶が湧いてくる。
【僕】は、一昨日の朝、目が覚めたら日本にいて、「鷹野翔太郎」というオジサンになっていた。
知らない筈なのに、たくさんのことが分かる。
【僕】はオジサンの記憶を頼りに商店街へ出かけて……ハンドバッグを抱えて走ってくる男と遭遇した。
(ひったくり犯を捕まえたのは、ウォルクリスだったのか!)
【僕】はその後、ベッドで寝て起きたら、元の自分の身体に戻っていたらしい。
戻ってみると今まで無かった記憶が増えているうえに、知らないうちに1日が過ぎていて動揺したようだ。
僕が作っておいたトマトスープとパスタは、ウォルクリスにも調理方法が分かり、食糧庫から取り出してスープを温め、麺を茹でて朝食にしたらしい。
(ウォルクリスがダークマター製造職人じゃなくてよかった)
僕は苦笑しながらパジャマを脱いで私服に着替えると、宿舎の調理場に向かった。
【僕】の記憶によれば、今日の朝食用に故郷の村の郷土料理を準備しているらしい。
(アジア系の雑炊って感じだな。パンタードの骨付き肉から出汁をとるのか)
食糧庫の片隅に置かれていた大鍋を取り出して火にかけながら、僕は異世界の郷土料理に興味津々だ。
作り方は【僕】の記憶として残っている。
ウォルクリスが僕の料理を引き継げたように、僕も彼の料理を正しく引き継ぐことができた。
スープは完成しており、米を入れて10分煮込むだけで食べられるらしい。
パンタードは濃厚な旨味の出汁がとれる。
じっくり煮込んだことで、肉が骨からはずれて柔らかくホロホロになっていた。
そのスープに米を入れて10分ほど煮込めば、旨味たっぷりのスープが米にしみ込む。
この世界の米は長粒米で、水分と粘り気が少なくパラパラした軽い食感の米だ。
雑炊にしても糊状にならず、サラッとしたスープごはんに仕上がる。
「お、雑炊か。出汁はパンタードなんて最高じゃないか」
「「美味そう~」」
手伝いに来たアウラウダが鍋を覗き込んで言う。
一緒に来たラフォルムとティミッドの腹が、早速グゥ~ッと鳴った。
「おぉ! 今日もいい匂い!」
先輩たちが食堂に入ってくる。
僕とアウラウダが大鍋から雑炊を掬って木製のスープボウルに注ぎ、ラフォルムとティミッドが配膳カウンターに置いていく。
先輩たちに渡した後は、僕たち四人の分をよそって朝食タイムになった。
初めて食べる異世界の雑炊は、さらさらと食べられる鶏出汁風味のお茶漬けにも似ている。
美味しくて胃に優しくて、オッサンの身体にも良さそうだ。
作り方は【僕】との記憶共有で覚えたし、今度日本で似たものを作ってみよう。
◇◆◇◆◇
朝食の後、見習い四人組は食器洗いと片付けを済ませてから朝稽古に向かった。
騎士団の朝稽古は剣術の「型」の練習で、剣を片手に持ち、太極拳のようなゆっくりした動作を続ける。
呼吸も意識しながら、流れるように剣を振る。
朝の爽やかな空気に合う、健康的な訓練だった。




