ep85:ご近所付き合い
異世界へ行ったら、一度は訪れてみたい場所。
人によってそれは様々だろう。
僕の場合は、世界樹とかエルフの里とか、自然豊かな場所に行ってみたかった。
異世界へ行ったら、一度は会ってみたい種族。
これも人によって様々だろう。
僕はエルフと妖精に会いたかった。
ハーフエルフはすぐ会えたけどね。
それらは僕が暮らしている寮のすぐ側にあった。
途中で木の実に埋もれたりしなければ、最短1分で着きそうな場所だ。
「ただいまー」
ベルさんが、帰宅した子供みたいに言いながら、大樹の幹に片手で触れる。
触れた部分が白く光った直後、周囲の風景が変わった。
これも転移魔法の一種だろうか?
「ママ、ウォルくんを連れてきたよ」
「あらまあ、かわいい男の子ね」
ベルさんとその母の会話を、僕はまた呆然としながら聞いていた。
会話は学校で仲良くなった子の家に行ったときみたいなんだが、現場は妖精たちが舞う王宮の中だ。
壁際には侍女や侍従の他に、帯剣したエルフたちも立っている。
妖精たちは来客を歓迎するように、様々な色の花びらを降らせた。
ハーフエルフのベルさんの母親で、今生きているのならエルフだろうとは思ってた。
でも、女王だなんて聞いてない。
「はいこれ。ウォルくんのお土産」
「まあ、美味しそう! チャワンムシに似ているけど、甘い香りがするわ」
ベルさんがマジックバッグからプリンのカップを取り出すと、壁際のエルフたちや空中の妖精たちの視線が集まる。
1個じゃ足りなかった気がする。
「みんなも食べたい? なら材料を採ってらっしゃい」
「卵と乳と砂糖で作れるわ」
「「「了解!」」」
女王様に命じられ、ベルさんから材料を聞き、エルフたちが次々に退室していく。
言語はガリア王国のものとは違うけど、僕は理解することができた。
多分これも「言語理解」的なものかもしれない。
妖精たちも飛び去り、広間には女王様とベルさんと僕だけが残された。
「じゃ、私はこれを頂くわ」
「このスプーンで掬って食べてね」
女王様はベルさんから銀製スプーンを受け取り、嬉しそうにプリンを掬う。
上品に一口食べて、ほぅっと満悦の笑みを浮かべた。
「冷たくて甘くて美味しい。【ぜんざい】も美味しかったけど、これも素晴らしいわ」
「ママは甘い物が大好きだものね。ウォルくんが藍苺の実でお菓子を作りたいそうだけど、分けてあげてもいい?」
「いいわよ」
「じゃあ、帰りに採っていくね」
何故か、僕が次のお菓子を作ることになっている。
しかも素材がスーパーフルーツどころか奇跡の果実レベルなんだが。
「ウォルくん」
「はい」
プリンを食べ終えた女王様が、優しい笑みを浮かべて話しかけてくる。
呆然としていた僕は、ハッとして背筋を正した。
「いつもベルに珍しい料理を教えてくれてありがとう。この森には美味しい木の実がたくさんあるから、いつでも自由に採りにきてね」
「ありがとうございます。お菓子を作ったらお届けしますね」
「まずはフラオカンの実でお菓子作りね」
エルフの女王様に、森の木の実採集許可をもらってしまった。
ベルさんからは次回予告をされてしまった。
さっきのブルーベリーに似た植物は「フラオカン」というらしい。
次はタルト作りかな。




