ep84:贈り物
僕はベルさんと手を繋ぎながら、樹齢三桁軽くいってそうな大木が立ち並ぶ森の中を歩く。
心地よい風が吹き、小鳥の囀りが聞こえ、甘い花の香りが漂う。
森の中を歩いているだけで、身体に活力が満ちてくる感じがした。
いいなぁ、ここ。
オッサン老後はこういうとこでノンビリ暮らしたいよ。
「こんな楽園みたいな空間が、お城の隣にあるなんてビックリですよ」
「良いところでしょ? ママにお願いすれば、いつでも来られるわよ」
ベルさんのお母さんは、一体何者なんだろうか。
マジックバッグを手作りするくらいだから、魔法や魔道具制作の技術は高そうな気がする。
周囲には低木の茂みもあり、白い釣り鐘のような花と、紫色の丸い果実がついている。
花と実が一緒に見られるなんて珍しい。
開花から結実まで早い植物かもしれない。
「食べてみる?」
「いいんですか?」
「洗わなくても食べられるから。そのままどうぞ」
「いただきます」
ベルさんが立ち止まり、近くの低木から実を取って僕に差し出す。
僕は一応遠慮がちに聞いてみたものの、どうぞと言われて迷わず口に入れた。
見た目から予想した通り、ブルーベリーに似た味がする。
薄い皮の下から、濃厚な甘さとほどよい酸味が広がった。
「美味しい! こんなにいっぱいあるなら、果実の砂糖煮が作れそうですね」
これは良いものだ。
僕はブルーベリーが好きで、農園のブルーベリー狩りで採ってきた果実でジャムを作ったこともあった。
この世界に似た果実があるのなら、ジャムやタルトを作りたい。
「気に入ったみたいね。その果実は目にいいのよ」
ベルさんが教えてくれた効果も、ブルーベリーと似ている。
しかし、その後に続く説明は、僕を驚かせるものだった。
「この実を1粒食べれば、眼病も老眼も全て治っちゃうのよ」
「えっ?!」
それは少年じゃなくてオッサンが食いたいよ。
ウォルクリスの目は若くて健康で何の不調も無いから、食べても効果は分からなかった。
残念な気持ちになった直後、頭上から幼い子供たちの声がする。
「イリキーヤ様の子だー!」
「ちがうよ、加護もちだろ?」
「なんか作ってー」
「これあげる!」
誰だろう? と思った直後、大量に木の実が降ってきた。
ドングリに似た大小様々な堅果が、霰のようにバラバラと降ってくる。
小さなリンゴやミカンみたいな果実も一緒に降ってくる。
あっという間に、僕は木の実の山に埋もれてしまった。
「あらあらこんなに。ウォルくんはマジックバッグ持ってないから、これは私が預かっておくわ」
ベルさんの声が聞こえた後、僕を埋もれさせていた木の実の山が消える。
呆然とする僕に、ベルさんはマジックバッグのカフスボタンを留めながら苦笑した。
木の実の山に遮られていた視界が開けると、空中に手乗りサイズの妖精たちが浮かんでいるのが見えた。
「いらっしゃーい!」
「待ってたよー!」
「なんか作ってー!」
「あっちが調理場だよ!」
「みんな急かさないで。行こうウォルくん」
……なんかもう、ここに来た理由が分かってしまった。
僕は差し出されたベルさんの手を掴んで立ち上がり、そのまま手を繋いで歩き出す。
森の奥に、ひときわ大きな木が見えてきた。




