ep86:マジックバッグ
「そうそう、今日来てもらったのはね、ウォルくんにこれを贈りたかったからなの」
エルフの女王様はそう言うと、片手で空中を撫でるような動作をした。
何もない空間に、植物の繊維で作られたベルトポーチが現れる。
茶色の生地に緑の葉が刺繍されたポーチは、ベルさんのショルダーバッグとデザインが似ていた。
「ウォルくんは騎士を目指しているそうだから、剣を振るとき邪魔にならないように腰に巻く鞄にしたわ」
「良かったねウォルくん。これで妖精たちが山ほど素材をくれても安心ね」
って。
マジックバッグを頂いてしまった!
「ありがとうございます!」
これは嬉しい。
買い物にも便利だし、素材採集にも大活躍する品だ。
「じゃあ早速、さっき貰った物を移し替えましょ」
「はい」
「そっちの鞄を開いてて。上から流し込むから」
「OKです」
ベルさんと僕は、それぞれの鞄の留め具となっているカフスボタンからボタンホールをはずして蓋を開ける。
僕が持つ鞄を開くと、ベルさんはショルダーバッグを肩からはずして逆さまにした。
滝のような勢いで、木の実が鞄から鞄へと流れ落ちていく。
ジョークのように奇妙な光景だ。
「まだ時間は大丈夫かしら?」
「はい」
「じゃあ、お茶を飲んでいってね」
木の実の移し替えが終わると、女王様のサロンに招かれた。
大樹の中にある城のテラスは、太い枝の上にある展望台みたいな場所だった。
高所恐怖症なら泣いちゃうかもしれない。
僕は高いところは平気なので落ち着いて見てられるけど。
空は青く澄み渡り、涼やかな風が吹いてくる。
見晴らしが素晴らしく良いテラスは、椅子に座りながら遠くの山まで見渡せた。
下に広がる森やリシュの街が、ジオラマのように小さく見える。
こんなに大きな木があれば目立ちそうなのに、今まで見たことがない。
多分、ここは隠された空間なんだろう。
僕はそう考えて、驚くのをやめた。
ラノベ好きのオッサンは、不思議なことへの適応力が高いのだ。
「接骨木花のお茶、気に入ってもらえるといいのだけど」
声に振り返ると、湯気の立つカップを三つ乗せたトレイを手にする女王様がいた。
女王様自ら淹れてくれたハーブティは、マスカットに似た香りがする。
ほんのりと優しい甘みで、クセの無いフルーティーな味わいの美味しいお茶だった。
「飲みやすくて美味しいです」
「このお茶は、風邪や喉の痛みを治してくれるのよ。お年寄りの足腰の痛みにも効くわ」
美味しいお茶にほっこりしていたら、ベルさんが効能を教えてくれた。
足腰の痛みに効く?!
ちょっとそれオッサンが欲しいんだけど!
しかしウォルクリスの身体は若くて健康なので、せっかくの効能が全く感じられなかった。




