ep81:王妃様の訪問
痩せこけていたリュンヌ様が少しふっくらして、健康な子供に見えるようになった頃。
姫様の部屋を、王妃様が訪れた。
その腕に、国王陛下と同じ金髪の赤ん坊を抱いている。
赤ん坊は確か男の子で、いずれは王太子になるかもしれない子だ。
「リュンヌ、すっかり元気になりましたね」
「はい、お母様」
「好き嫌いや病気ではなく体質だと分かって良かったわ。辛い思いをさせてごめんなさいね」
王妃様は、名前をミュゲ・カモミーユ・レーヌ・フルールという。
今まで会いに来れなかったのは出産や子育てもあるが、リュンヌ様が感染性の病気の可能性も考えられていたからだった。
「もう大丈夫です。ウォルが真実に気づいてくれたから、こうして元気になれました」
リュンヌ様はお茶を運んできた僕の方を振り返り、微笑んで言う。
僕も笑みで応え、王妃様とリュンヌ様の前にハーブティを置いた。
最近の僕は、専用料理人どころかリュンヌ様の付き人みたいになっている。
リュンヌ様が口にされるものは、僕が全て用意していた。
「ウォルクリス、私の大切な娘を助けてくれてありがとう」
「どうぞその感謝はイリキーヤ様に。僕は神から与えられた知識が無ければ、ただの子供です」
王妃様にウルッとした目で見られて、僕は落ち着いた口調で返す。
この入れ替わりは神の力によるものだし、ウォルクリスに鷹野翔太郎の知識を放り込んだのはイリキーヤ様だ。
リュンヌ様のことは僕だけじゃなく、もしもアレルギーの知識があれば誰でもできると思っている。
そもそもこの国にアレルギーの知識が広まっていれば、こんなことにはならなかった筈だ。
「あなたは神の加護をもつ人にしては、随分と控えめなのね」
「この加護は一時的なものです。イリキーヤ様が望む料理が全て広まれば、加護は失われます」
王妃様が微笑む。
ラ・テール様のことは言えないので、僕は無難な理由で加護が永遠ではないことを告げた。
僕はイリキーヤ様の依頼を達成したら、入れ替わりは起きなくなると思っている。
「この美味しいお茶も、このひんやり冷たいお菓子も、加護を失ったら作れなくなってしまうの?」
「いえ、一度作ったものはずっと作れます」
リュンヌ様が、プリンが入ったカップを両手で持ち、残念そうに問いかける。
僕は微笑んで答えた。
「この身に入った知識や技術は残ります。新たなものが入ってこなくなるだけですよ」
僕がこちらで作った料理の記憶と技術は、【僕】に引き継がれる。
リュンヌ様のお気に入りになったプリンも、勿論作れるようになっている。
いつか僕が来れなくなっても、ウォルクリスという料理人は存在し続けられるだろう。




