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58.ママの正体(2)

「ほう……海軍諜報部とエースエージェントが手を焼いているというのに、警察の警部補が一人で突きとめたというのか」


富士の言葉は皮肉をとおり越し、怒りが含まれていた。嘘だったら承知しないぞ、という警告だ。


彩子も態度にはださないが似たような思いだ。


「そう聞いています」怖じけることなく京子はいう。


「警部補はいつ来れる?」


「今はコウベ署にいて、もう出れるはずですが、足がありません」


「迎えに行かせます」彩子は早口でいい、コンソールからヘリに指示をだした。



ニ十分ほどで高速ヘリが戻ってきた。


立花がタラップを降りてくる。普段から目つきが悪い男だが、寝不足なのか大きなクマのある目を細め、さらに不快な視線となっていた。


立花は富士の前で敬礼した。


「はじめまして、富士海軍大将閣下。ヒョウゴ県警コウベ署マフィア対策課の立花です」


敬礼で返した富士は、「前口上は結構、さっそくママの正体を」と口調を早めた。


「はい。裏が取れてない箇所も多いのですが、石倉灯で間違いないかと。私の上司でマフィア対策課の課長です」


彩子は眉をよせた。石倉灯、立花を調査する過程で知った名前だ。


四十七歳のマルマルと太った女で、早い段階で立花自体をママ候補から外したこともあり、その上司の女など深く調べてはいない。他に優先すべき人物が山ほどいたのだ。


「その、根拠は?」富士がいった。


「まずは性別、年齢、体型が、ママと呼ばれる人物と一致します。そして、一年前にテロに巻き込まれて亡くなった彼女の息子の名は、聖人君子の聖と書いてキヨシ、石倉聖です」


彩子は富士にアイコンタクトし、以降の会話を受け持つ許可を得た。


「ふーん、母子合わせて『聖なる灯り』というわけね。でも、ただの偶然じゃないの? 石倉灯のことは調べていないけど、『聖なる灯り』は調べたわ。もともとの運営会社と石倉灯には関連性なんてない」


「運営会社との関連性はないだろう。彼女は偶然、二人の名を冠するSNSを見つけて、それを天の啓示にすりかえただけだ」


「いろいろいいたいことはあるけど、まずは……石倉灯本人は認めたの? 上司なんだから、簡単に訊けるでしょ」


「本人とは連絡がついていない」


「あっ、そう」彩子はあからさまなため息をついてやった。「それで? まさか、名前の一致以外に証拠がない、とかいわないでよ」


「昨晩、相馬さんはいったな。犠牲者の中で、犯罪者でないのは三上さんだけだと。ママにとって三上さんは餌となりえる特別な存在だと」


「ええ、いったわ」


「一年前、モデルガンを持って幼稚園に立て籠もり、三上さんに射殺されたのが、石倉聖だ」


そんな関連があったの! そう驚くのと同時に、この私がそんなことを見逃したのか、との驚きもあった。


彩子は全てのことを自分一人で調べるわけではない。重要な調査や、誰も絡ませたくない機密は自身で調べるが、それ以外は諜報部にふり分ける。


そうでないと、とても回らない。大将直轄のエースエージェントともなれば、情報の価値を判断していかに計画的に諜報部を活用するか、というスキルも重要なのだ。


そして、リクレンジャーに関してはおおむね自分で調べたものの、一部は諜報部に任せた。


京子を左遷する建前に利用したテロ事件に関しては、ランクがさほど高くない陸軍機密だったので、諜報部を活用している。


その諜報部からの報告で、石倉聖の名はあったのだろうか?


彩子はコンソールを手早く操作し、諜報部が取得した機密文書にさっと目をとおす。やはり、石倉聖などとは書かれていない。


「ちょっと待って、石倉聖ではなくて阿川翔吾じゃない?」


「石倉聖で間違いない。陸軍の文書のほうが改竄されたんだ。石倉灯の協力者にな」


「なるほど。それが『姫』というわけか。石倉灯には陸軍の機密文書を改竄できる力はないし、私や諜報部と同等の諜報力もない。ママと『姫』は同一人物ではなく、ママこと石倉灯は『姫』の傀儡だったということね。結局この事件の鍵は『姫』が握っている。ママの正体がわかったからといって、あまり進展はないわ。でもまあ、石倉灯はおさえて、『姫』のヒントがないか調査は必要ね」


「いや、協力者は『姫』ではない。別にいる」


「はいっ? じゃあ誰だっていうのよ」


立花はその質問には答えず、山口のほうに一歩進んだ。



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