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55.海軍大将(4)

「星川葵博士ね。まあ、たしかに博士は『クロガネ』の産みの親だし、四十路だから年齢も母親に近い。それに今、『クロガネ』の補給やメンテナンスをしているのも博士だから、接触する機会も多いわね」


「俺も『クロガネ』とは接触したが、『ママ』にずいぶんと従順だった。それこそ本当の親のように。星川葵氏と『クロガネ』は実際の親子に近い仲じゃないのか?」立花がいった。


少しの間があって、「まったく」と彩子は答えた。「博士は『クロガネ』のことをモルモットとしてしかみていないわ」


「そうか……」と、立花は頷いたが、翠は納得しなかった。


「『クロガネ』のことをモルモット扱いしていることで、星川葵がシロとはならないはずですわ。いくらでも『ママ』を演じることができますもの」


「もちろん、それだけではないわよ。『クロガネ』はママの正体を頑として明かさないけど、日常会話に紛れさせて得た情報の断片から、諜報部のほうで分析していたわ。ママの年齢は四十代後半、色白でかなりふくよかな体型。性格はおおらかで優しい、とのこと。もちろん、性格に関しては少年相手なら演じることは難しくないけど、体型の方はなんともならないわ。星川博士は鶏ガラのように痩せているのよね」


「体型が違うという理由で、星川葵は調べていないとおっしゃいますの?」


「……いえ、博士のことも一応は調べたわよ」


「調べたのなら知ってますわよね!」翠の瞳に凄みのようなものが加わった。「星川葵は、軍に内密で未だに人体兵器の開発をしていますわ。人身売買までしてね」


「それも知ってるわ。でも今回の件とは無関係」彩子はふうっと、息を吐いた。「ところでさぁ、家族を売るようなまねをして、博士に恨みでもあるの?」


「あの女に、硫酸で顔を溶かされましたわ」翠の言葉に立花は耳を疑った。


「あら? アイドルみたいに綺麗な顔してるじゃない」彩子は小首を傾げる。


「ご存知なのでしょ? これは整形ですわ。勝手に潤一郎に整形させられましたの。葵が熱をあげていた潤一郎は、ワタクシにお熱だった。嫉妬に狂った葵にワタクシは拉致監禁され、最後には顔を溶かされ放りだされた。その罪滅ぼしのつもりか、潤一郎にやたら綺麗な顔にされちゃいましたの。自分でいうのもなんですが、こんなただ整っただけの顔より、ワタクシの元の顔の方が生き生きと魅力的でしたわ」


少しの間があってから彩子は口を開く。


「グリーンちゃんが、博士を恨みたい気持ちはわかるけど、この件に関しては星川博士は無罪よ。博士はただの研究者、諜報部や私が待つ機密情報にさわれない以上、『ママ』にはなれない」


「そう、残念ですわ。復讐のチャンスかと思いましたのに」翠は肩をすくめ、舌をだした。


翠になにかいってやるべきだ、そう立花は思ったのだが、結局なにもおもい浮かばないまま、彩子が話を進めた。


「というわけで三上さん。さっそくだけどいいかしら。『ママ』をおびきだす作戦だけどね……」そこまでまいって彩子は止まった。


こちらには聞こえないが、おそらく本部から指示を受けているのだろう。「なんの指示だ?」と立花が問うと、彩子はうってかわって機敏な動作で、敬礼のポーズを取った。


「ニホン陸軍三上京子准尉。ニホン海軍富士大将からの伝達です。そのまま伝えます。『作戦うんぬんの前に、会ってみたい』、とのことです」


京子は「元准尉です」との前置きをしてから、「承知しました。そう、富士大将閣下にお伝えください」とピシリとした敬礼で応じる。


立花は身震いした。特別なことでもないかぎり、准尉が大将などに会えるものではない。


しかも陸軍から弾かれた京子が、海軍のトップと会うというのだ。奇跡のような展開だ。


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