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54.海軍大将(3)

海軍がバカなことをしなければ、井川は今も生きていた!


そう怒鳴ってやろうとしたが、だからといって雫の様態が良くなるわけではない。井川はさらに罪を重ね、やがて壊れたのだろう……。


考えれば考えるほど、やるせなくなった。


「さて、これで『クロガネ』は準備万端。すぐに次の事件が起きるわけだけど、その犠牲者に海軍諜報部がひっくりかえった。アシヤ市でおきた婦女暴行事件の犯人だったの」


半年前に起こったアシヤ市婦女暴行事件は、立花の耳にも新しい。犯人はまだ捕まっていないが、彩子が犯人の名を告げた。


蜂谷英太郎、海軍の若いキャリア士官とのことだ。


事件後はもちろん首になったが、才色兼備のエリートだった蜂谷は、海軍の広報としてたびたびメディアへ露出していた。


だから海軍諜報部が、きっちり事件の真相に蓋をしたというのに、『聖なる灯り』の「アシヤ市婦女暴行事件の犯人に天罰がくだりますように」という書き込みで、蜂谷が殺された。


海軍諜報部の情報が漏れていないと、ありえないことなのだ。


この緊急事態に、海軍トップの富士大将が動いた。


諜報部とは一定の距離がある海軍大将直轄のエージェントを海外から呼び戻した。それが『人魚』こと、相馬彩子だ。


そして富士大将が所管のもと、大将の腹心とでもいうべき山口少将が担当管、大将直轄エージェントの相馬彩子が実務という、背信の余地がない布陣が完成した。


だが、さらに事件は起きた。彩子が、「テロ犯A」などというテロ犯全般を意味するであろう書き込みにも対応し、実際にイニシャルがAの有本を突きとめた。


海軍諜報部にすら知らせていない情報も、『ママ』は持っていた。有本にとどめを刺したのは『クロガネ』なのだ。


星川潤一郎の場合は、名指しで書き込まれたので人物を割りだす必要はないが、その潜伏先を見つけるのが困難だった。これも彩子が独自に調べて割りだしたというのに、『クロガネ』は現れた。


そして本日も、京子が第七アイランドに向かったのは監視していた彩子と、本部の富士大将、山口少将しか知らないはずだった。


「はじめの犠牲者たちは警察レベルで収集可能な情報だったわ。それが海軍の諜報部が『クロガネ』に接触しだすと、諜報部レベルの情報になり、今では私の特命レベル」彩子は髪をかきあげ、ため息を落とす。「はたからみれば、私か少将が裏切っているか、大将の自作自演のどちらかね。ある一点の可能性を除いては」


「それが、『姫』だと?」京子が訊いた。


「そう。私でさえ正体がつかめない組織のボス。エース級エージェントがたくさんいると考えているわ。彼らなら、私と同じように有本にも、星川潤一郎のアジトにもたどり着けた可能性が高い。そしてなにより、三上さんが第七アイランドに向かうことも知っている」


「たしかに」


「それともう一つ、『姫』が怪しいと思う点があるの。私は『聖なる灯り』に書かれた人物の多くを追ったわ。数にして五十人。そのうち七割は私怨、本当の悪人は三割程度よ。そして、被害者はその三割に含まれている。三上さんを除いてはね」


「私は多くの人間を殺している。その中には少年や少女も含まれる」


「私がいった悪人というのは、ニホンの法律で有罪となる犯罪者、という意味よ。なぜか『ママ』は不思議なくらいにニホンの法律を重んじているの。だから、三上さん以外にも軍人は書き込まれていたし、武器商人なんてのもいた。でも彼らはスルーよ」


「つまり私は、『ママ』の世直しルールを破ってでも殺したい人物だということだな。たしかに一条を窓口にしていた私は、『姫』の正体に一番近いのだろう。そろそろ口封じの必要があったのかもしれない」


「ねえ、三上さん。海軍の恥部もふくめて私がここまで情報開示する理由、わかる?」


「私に、『ママ』および『姫』をおびきだす餌になれというわけだな」京子がいうと、「うんうん、そうそう」と彩子は頷く。


「ちょっとよろしいですか?」と、翠が割りこんだ。「海軍内部にも『ママ』候補がいますわ」


「へー、だれ?」彩子の視線が翠に向いた。立花も翠を見た。


「星川葵。私の姉です。潤一郎から送られたデータによると、『クロガネ』の開発者なのでしょ。『ママ』と呼ぶにはぴったりの人物ですわ」



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