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50.集結

悪夢だ。十秒後に俺は殺されるのか……。いや、真理亜を売れば助かる……かもしれない。


「じゅーう、きゅーう」


それにしてもなぜ、海軍は真理亜を? いや、海軍ではなく『人魚』が、『クロガネ』以外にも、自身の駒となる人体兵器を探しているのだとしたら……。


「はーち、なーな」


そうなると、やはり『ママ』とは『人魚』のことなのだ! 義賊でも気取るつもりなのか、軍の人体兵器を使って世直し活動をしてやがる。


「ろーく、ごーお」


その世直しに、井川は巻き込まれた。雫との約束どおり、必ず『人魚』を刑務所にぶちこんでやる。そのためには、真理亜の情報を流してこの場を逃れる必要がある。


「よーん、さーん」


まて! 真理亜の情報を教えたからといって、本当に俺は助かるのか? もし俺が殺されたら、『人魚』はなんの障害もなく、真理亜に接触できる。


「にーい、いーち」


射撃は神業の真理亜も精神的にはまだ子供みたいなものだ。百戦錬磨の『人魚』にかなうはずもない。そうなると……真理亜は……。


話すから待ってくれ! その言葉が喉元まできていたが、結局は歯を食い縛った。


「ゼロ」


パンッとの音と同時に、目の前で火花が飛んだ。立花は目を見開いて肩で呼吸しながら、「弾丸落とし……」と、つぶやいた。そして、極度の緊張で固まっていた首を回し、後ろを見た。


真理亜だ……。開けっ放しのドアの向こうから銃をこちらに向け、長いブロンドをかきあげている。


数瞬は唖然としていた立花は、「手を挙げろ!」との京子の声でハッとする。いつの間にか京子が隣にいて、銃をかまえている。さらに彩子の目の前には、由紀が立ちはだかる。そこへ、翠の歌うような声が流れてくる。


「さあさあ、『人魚』さん。あなたがさらった我が隊のヒロイン、ピンクを奪還に参りましたわ。後方で構えるのは弾丸落としの神業を持つ、きらびやかな金髪をなびかせる死の天使、イエロー! キュートな見た目に騙されるな、謎の暗殺拳をマスターした羅刹天、ブルー! 皆を指揮するのは頼れるリーダー、陸軍最強のソルジャーと名高い、レッド! そして最後に、賑やかし担当のワタクシはグリーン! 五人そろいましては、ヒノマル戦隊リクレンジャー! 以後、お見知りおきを」


まだまだ恐怖と安堵が渦巻く不安定な精神状態にもかかわらず、奇跡的にも立花は今伝えるべき最も重要な言葉を口にできた。


「みんな、離れろ! 『人魚』は催眠ガスを使う」


「ガスのことは遠藤瑠璃さんに聞いていましてよ。でも大丈夫ですわ。ブルーの武術はそもそも相手の呼吸を見るそうですから、人魚が息を止めだしたらすぐにわかるそうですわ。レッドも戦闘時に呼吸を読むことはよくするし、必要があれば気合いで息を五分止めてみせる、とのことですわ」


「気合いでか……」


「早く銃を捨て、手を挙げろ!」鋭い声で京子が割りこむ。


「はいはい」彩子はふてくされた表情でいい、特に抵抗することなく銃をポトリと落として手を挙げた。


『人魚』は素直に従っているが油断はするな! そう立花は口にしかけたが、やめておいた。


京子も真理亜も寒気がするほどの鋭い視線だ。前にいる由紀の表情は確認できないが、ピクリとも動かない立ち姿に、なんとも表現できない凄みを感じた。


「あっ、質問していい?」職場で同僚に話しかけるように、緊張感なく彩子がいった。


「そちらが質問できる状況ではない」ピシャリと京子は返す。


「いいもん。三上さんじゃなく翠ちゃんに訊くから」彩子は舌をだした。


やはり彩子に、緊張したり怯んだりの様相はない。この状況でもそのようにふる舞えるのは、よほどの胆力なのだろうか、それとも逆転の一手があるのか?


「御指名とあれば。ただ、ワタクシのことはグリーンとお呼びください」


翠が一歩前に出る。


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