49.ピンク、最大のピンチ
少し考える仕草をしてから、彩子は口を開く。
「その浮気相手は私じゃないわよ。ヒヤマナギサという遠藤姉妹と似たようなギャル。清宮は私に熱をあげてたタダのお客。きっと清宮が見栄を張って、私を浮気相手だと吹聴したのよ」
たしかに、よりイイ女を連れていることがステータスだと考える男は多い。清宮のようなチンピラだとなおさらだ。
だがもちろん、彩子の言葉を鵜呑みにすることなどできない。この話の鍵は、本当の浮気相手だという、ヒヤマナギサという女性だ。
「ヒヤマナギサに会って話を訊きたい。そうじゃないとママではないと信じることはできない」
「もし私が警察署の取り調べ室にいるんだったら、刑事さんのいうことはまっとうなセリフね。でも今は、刑事さんが私に監禁されているの。私が絶対有利、その私がママじゃないといってるのだから、信じるしかないのよ」
「だが、信じられない」
「あまり調子に乗っちゃダメ。こっちとしては、本当の浮気相手の名前まで教えて、刑事さんの疑いに応えたのよ。わざわざ質問に付き合ってあげたのも、私の案件を解決する糸口があるかもって、期待したからなんだから」
「だったらその案件とはなんだ」
若干の間があってから、「ヒメの正体」と、彩子はいった。
「ヒ、メ?」立花は眉をよせる。
「それがネエさんの質問か?」美沢がいった。
「あれ? 親分さんは知ってるの⁉」
「どうだかな」と、美沢は思わせぶりな態度だ。
「質問に答えてちょうだい」彩子は美沢に銃口を向けた。
「おい、それをこっちに向けるんじゃねぇ」美沢は脅すように声を低めた。
「早く質問に答えて。十秒以内ね」彩子は動じずいい、じゅーう、きゅーう、とカウントダウンを始めた。
「海軍がなんだか知らねえが、こっちはルール無用のマフィアだ。俺を撃ってみやがれ、タダじゃ済まねえぞ! マフィアは相手が誰でも必ず報復する。舐められたら終わりの商売だからな!」美沢は早口でまくしたてる。
「はーち、なーな」
「まずは、てめぇを拐って拷問だ。うちには俺でもヘドがでるような変態部隊がいる。そいつらに凌辱の限りを尽くされて、その記録はネットに流される。そして、死体はブタの餌だ」
「ろーく、ごーお」
「だが、今ならまだ間に合う。さっき俺たちをこけにした件は、俺が押さえ込む。なに、あんたほどの美人なら、俺も爺さんどもの説得が楽だ。ウチも軍とのパイプは欲しがっていた」
「よーん、さーん」
「マフィアの情報網はなかなかのもんだぜ。動かせる兵隊も多い。きっと姐さんの探しものも見つかるさ」
よくもまあ、いけしゃーしゃーと……。美沢の熱弁に、立花は呆れた。
「にーい、いーち」
「手を組もうぜ、姐さん。絶対に損はさせない」美沢は自信たっぷりな表情でニヤリと口角をあげて見せた。
「ゼロ」パンッと音が鳴り、美沢の首がガクリと後ろに傾いた。先ほどの表情を貼り付けたまま、額に空いた穴から血が吹き零れる。
立花は言葉を失った。本当に撃つとは思っていなかった。
まだ尋問ははじまったばかりだ。もし撃ったとしても、足の甲とか致命傷にならないところだとタカをくくっていた。
「さて、次は刑事さんだよ」彩子はなにもなかったかのような表情で、銃口を立花に向けた。
「俺は何も知らない」事実なのでそういったが、声は震えていた。
思わせぶりな言葉で興味を誘った美沢も、知らないのは明白だった。それなのに、彩子は躊躇なく撃った。
「本当に知らない? 『ヒメ』っていうのは、プリンセスの姫だよ」
プリンセス! その言葉が立花の中でハレーションを起こし、タイガープリンセスという言葉を照らしだした。つまり、真理亜のことだ。
「あっ、何か思いだしてくれたようね」
「いや、なにも」立花は平静を装ってそう答えたが、彩子は首をふった。
「刑事さんも職業柄、相手の嘘を見抜くのは得意かもしれないけど、私だってなかなかのものよ」
「本当になにも知らない!」
「それでは、いきまーす。カウントダウン! 正直に話してくれたら、助けてあげるよ」彩子はウインクし、銃口を立花に向けた。




