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48.ペテン

無心で『クロガネ』から逃げ回る中で、京子は二つのことに気づいた。


まずは、機関砲の狙いのつけかたに違和感を抱いた。


基本的には京子の起動を追って正確に射撃してくるのだが、自身の機関砲で倉庫の壁が削れて派手な音がしたときは、まるでそれに驚いたかのように精度がぶれる。


おそらく『クロガネ』は、視覚ではなく聴覚に頼っているようだ。実際に、世界トップクラスの潜水艦を多くの保有する海軍にとって、音感知技術は得意分野だ。


次に気づいたことは、絶対の自信がある。


こと、戦闘に対して、『クロガネ』は素人だった。訓練はされているので素人はいいすぎかもしれないが、少なくとも戦地での実戦はないはずだ。なんども死線を乗りこえてきた京子と比べると、その差は歴然だ。


一つの推測と一つの確実から、京子が選択したのはただのペテンだった。


音の洪水に身を隠し、車での脱出を演出。『クロガネ』はまんまと引っかかったのだ。



警報機は通報と連動しているのだろう、遠くでパトカーのサイレンが聞こえてきた。


長い間、水に打たれて冷えきった身体が酷く重く感じるが、泣きごとなどいってられない。


「無事でいてくれ」


京子はつぶやき、走りだした。




    ■□■□■




ふと目が覚めて、顔をあげた。ぼんやりした視界に驚くような美女が現れ、立花はハッとした。『人魚』こと、相馬彩子が目の前にいる。


「お、は、よ、う」彩子がウインクした。


「ここはどこだ」立花はいいながら、状況把握に注力した。


手足は縛られた状態で、椅子に座らせられている。逃げることも反撃することも難しそうだ。


隣には同じく縛られた美沢が椅子に座っているが、頭は垂れたままだ。まだ眠っているのだろう。


部屋は広いが窓はなく、オフィスにあるような長机とキャスターチェアが並んでいる。壁にはホワイトボードがかかっており、まるで会議室だ。


海軍の施設だろうか? 彩子がママだとすると、軍には秘密の場所かもしれない。


「さて、親分さんにも起きてもらいましょう」


彩子はいうと、美沢の頬に強烈なビンタを繰りだした。バチッと大きな音が響き、美沢は唸りながら顔をあげた。


そういえば頬がひりついていることに気づく。同じ起こされ方をしたのだろう。


「てめぇ。こんなことしてどうなるか、わかってんだろうな」美沢は低い声でいい、彩子を睨みつけた。


それには応じず、彩子は立花に向けて微笑み、銃を取りだした。


「私に訊きたいことがあるのでしょ。うかがいましょ。さっきとは、立場が逆転してるけどね」


「まて! 俺が先だっ!」美沢が割りこんだ。「催眠ガスなんてどこに隠してた!? 身体検査は部下がしていたはずだ!」


「マフィアの身体検査なんて表面的に触るだけじゃない。その気になれば武器なんて手術で体内に埋め込むことだってできるのよ。今回はそこまでせずに、手っ取り早く大腸に隠したけどね」


「じゃあ、あれか? キサマは尻の穴からガスをだしてたっていうんだな。下品な女だ。スカンクみたいなヤローだぜ」


「少し黙ってて」流れるような動作で彩子はくるりと回り、銃のグリップを美沢のこめかみに打ちつけた。


たらりと血を流した美沢は、怒り狂うでもなく、ただ彩子を見据える。計算高い男なので、挑発したのもわざとなのだろう。


「さて、続きよ。刑事さん。私にはどんな用があったの?」


「『クロガネ』を操っているママとは、あんたのことか?」立花は数瞬思案するも、小細工なしにいった。


「違うわよ。私もそのママを捜しているのだから」


「『クロガネ』は『聖なる灯り』の掲示板に書かれた人物を殺していた」


「ええ、そうよ」


「清宮正義という男も『クロガネ』に殺されている。その前に、あんたは清宮に接触しているはずだ」


「『聖なる灯り』に書かれた人物とは、ほぼ全員と接触したわよ。私もママを追ってるのだから、当然のことじゃない」


「こと清宮に関しては、『聖なる灯り』に書き込まれる前からだ。あんたと清宮の浮気がばれたのをきっかけに、遠藤姉妹は『聖なる灯り』に清宮の名を書き込んだ」


立花は矛盾に切り込んだ。彩子は首を傾げる。


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