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47.京子とクロガネ

距離は五十メートル、京子は銃をかまえ三発発砲。命中した手応えはあったが、『クロガネ』に怯むようすはなく、スピードも落ちない。


京子はさらに発砲する。全弾頭部に命中し、やっと『クロガネ』の速度が落ちた。


だが、ダメージがあったからではなさそうだ。『クロガネ』は左手を水平にあげ、掌をこちらに向けた。


機関砲を持っていないのは、腕に仕込まれているからだ!


瞬時に理解した京子は再び倉庫の陰に飛びこむ。ほとんど同時に左手から放たれた機関砲がアスファルトを穿つ。


やはり罠だったのか!?


そんな後悔にふける余裕もなく、京子は規則正しく並べられた正方形の倉庫の合間を縫うよう逃げる。


すでに一〇メートルまで迫っていた『クロガネ』から、機関砲が放たれる。京子から数歩遅れて、鉄杭が倉庫の壁を砕く。


京子は逃げ、『クロガネ』が追う。


幾度と機関砲が放たれるも、きわどいタイミングで避け続けた。


何度か機関砲を浴びてしまった倉庫は倒壊寸前となっている。人体など一発かすっただけでも致命傷だ。


一分ほど命懸けの追いかけっこが続き、京子の息も切れてきた。疲労が蓄積する生身の京子と、疲れ知らずのサイボーグである『クロガネ』。長引くほど不利になる。


本来なら打開策を模索するべきだが、機関砲から逃げるのに必死で、とてもそんな余裕はない。


さらに一分がたった。いよいよ『クロガネ』の機関砲を避けるのがぎりぎりになってきた。初めは数歩あった余裕も、今では半歩だ。


どうしたらいい? どうしたら!? 空回りする自問を繰り返しながら、また、一分が過ぎた。ついに、『クロガネ』の機関砲は京子の衣服をとらえだす。半歩が数センチになったのだ。


「もう時間がない……どうしたら? いや、考えるな。私の奥にあるモノに任せろ」そうつぶやき、京子は考えるのをやめた。


生存本能に委ねるように、ただただ無心となった。そうすることで、さらに数分、『クロガネ』の機関砲を皮一枚で逃げ続ける。そして、ついに脳内で光が弾けた。


機関砲で空いた倉庫の壁の穴に飛びこむ。『クロガネ』も壁を突き破り、倉庫の中に入ってきた。


もはや逃場はほとんどなく、追いつめられた状態だ。だが、京子は自分を信じて賭けにでた。


まずは、天井向けて拳銃を放り投げた。銃は火災報知器がある辺りにぶつかり、カンッとかん高い音をたてた。


直後に機関砲が火を吹く。拳銃はバラバラになったが、火災報知器に異常検知させることに成功した。


警報音が鳴り響き、天井のスクリンプラーから嵐のように水が吹きだした。


音の洪水状態となり、予想どおり『クロガネ』はしばし呆然としていた。その隙に京子はコンソールを操作して車を倉庫の前に呼びだす。


『クロガネ』の沈黙は長く続かなかった。まるで倉庫ごと破壊するかのように、機関砲をでたらめに撃ちだした。


コンテナの耐久力などたかがしれている、一分も撃ち続ければ京子もろともバラバラにして、瓦礫の一部となるだろう。


今しかない! スクリンプラーの嵐と機関砲が乱れ飛ぶ中、京子は出入口の鉄扉に向かって駆けた。そして、閉まったままの鉄扉にヘッドスライディング。


頭がぶつかってゴンッと音が鳴り、京子はそのまま地面に這いつくばる。


直後に機関砲が鉄扉を捉え、ひしゃげて吹き飛ぶ。扉の先には、先ほど呼んだ車がちょうど到着。


だが、京子は車に向かって走るわけではなく、うつ伏せの常態から二回転半横に転がって、扉の脇にずれた。


車はあらかじめ指示をだしていたとおりに、一度運転席の扉を開け閉めしてから、走り去る。


そして京子は床の一部にでもなったかのように、警報音とスクリンプラーの嵐の中で、息を潜めた。『クロガネ』は猛スピードで走って京子を横切り、倉庫から出る。


数秒後に車が爆発する音が届いた。それからは警報音とスクリンプラーの激しい雨がコンテナを叩く音のみとなった。


京子は立ちあがることも首を傾けることもなく、そのまま床の一部となり続ける。


警報がやんだのは五分後だ。すでに『クロガネ』の気配はなくなっていた。京子は大きく息を吐いた。



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