表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

41.遠藤瑠璃(2)

立花が話を聞くといったのに、瑠璃はなかなか話しださない。


「新しい男にでもやられたのか?」


そういってやると、やっと瑠璃は口を開いた。


「儲かるからって、生でアダルト配信しろっていうの。嫌だといったら殴られた。次に渋ったらぶっ殺すっていわれたの。バックには赤ドラがいるから、死体も簡単に処理できるんだって」


赤ドラとはレッドドラゴンという大規模マフィアの略称だ。


マフィアの名がでたことで、立花はほっとした。というのも、DV男は素人のほうがやっかいなのだ。現行犯でもないかぎり、その場で逮捕とはならないので、男からの報復を防ぐのが難しい。


軽々しく警察が男に警告してしまい、数日経ってから被害者女性に会ったときには、男に散々脅されて口を閉ざしている。


なんてことがざらにあるのだ。


だが、玄人なら話は簡単だ。バックにいるマフィアと話せばスムーズに解決できる。しかも、赤ドラは立花の担当マフィアだ。すでにパイプはある。


「赤ドラなら話は早い。そのDV男はどこのどいつだ」


「オガタユウヤっていうの」


「わかった。オガタユウヤだな。あとで赤ドラの幹部に話をつけてやるから、清宮の女の店を教えてくれ」


「先に話つけて。店を教えるのは、そのあと」


「なんだ。信用してないのか?」


「だって姫華もいってたもん。お巡りなんて、嘘ばっかでなんもしてくれないって。なんもしてないのに、しゃぶれしゃぶれって、うるさいって」


姉の姫華とはまだ会っていないが、警察に不信を持っているようだ。しかも性サービスを強要されたというなら、許せる話ではない。


「その警官はどこのどいつだ。きっちり落とし前をつけさせる」立花の声は脅すように低くなった。


「瑠璃に怒んないでよ。姫華がいってただけだし」瑠璃は怯えた表情でいった。


「怖い顔になって悪かった。そういうことをする警察官が嫌いなんだ。よし、赤ドラの幹部に会いに行こう」


「うん」と瑠璃は頷いた。



覆面パトカーに乗り、赤ドラ本部のあるコウベの中心部に向かった。


その道中、姫華に電話するよう瑠璃にいった。性サービスを強要した警官の名を聞きだすためだ。


はじめは瑠璃越しに姫華と話をしていたが、どうにも進まない。途中からはコンソールを奪い、立花が直接話をした。


それでも姫華の話はコロコロとよく変わるものの、なんとか全容が見えてきた。どうやら警官が性サービスを強要した事実はないようだ。


姫華がトラブルに巻き込まれたときに相談した警官がきっちり対応できていないのは本当のようだが、性サービスの強要はトラブルを起こした男たちのほうだった。


「なんか必死じゃん」瑠璃が無邪気にクスクスと笑った。「お巡りなんて、身内には甘いと思ってたのに、立花さんは違うんだね」


「警察という権力の傘を、自分の欲望に変換するやつが許せないだけだ。マフィアよりもな」


もちろんマフィアのほうが悪徳警官よりも酷い暴力や悪事をはたらいているものだが、マフィアに対しては憎いとか許せないとかの感情は、立花の中にはあまりなかった。


もともと彼らは屑で悪人なのだから、憎むとか以前に、ただ悪事をあばいて捕まえるだけなのだ。すでに対立関係はできあがっている。今さら「許すまじ」というのもない。


だが、警察の権力を使って私腹を肥やすやからは許せなかった。マフィアから金を受けとるマ対の刑事など言語道断だ。


そういった刑事としての矜持を一番強く持っているのが、井川だった。そんな井川が金に魂を売った。


ショックや怒りはほとんどなく、ただただ同情した。


さぞかし辛かっただろう。娘のためとはいえ、あの井川がマフィアの犬となったのだ。これ以上ボロボロになる前に死ねてよかったのかもしれない……。


「その井川のためにも、雫のためにも、絶対に『ママ』を捕まえてやる」立花はあらためて決意した。



毒々しいくらいの真っ赤なビルの前で、自動運転の車が止まった。


すぐに黒いスーツの男がきた。立花は記憶をさぐる。赤ドラの構成員はかなりの数を頭に入れてある。


この男の名もすぐに記憶から出てきた。まだ二十代で本部ビルによくつめている岩橋という男だ。


ウインドウを下げ、立花の顔を確認した岩橋は、一瞬だけ嫌な顔をして、「お久しぶりです」と慇懃な態度でいった。


「幹部は誰がいる?」


「美沢がいます」


美沢は立花と同年代だ。赤ドラの幹部としてはかなり若い部類になる。


メンツにこだわらず損得勘定ができる男なので、話はつけやすい。だが、一つ難点があった。女の前では()()格好したがるのだ。


「俺が話をつけてくる」立花は瑠璃に視線をやった。


「瑠璃もいく」


立花はため息を落としながら車から出る。「美沢と話がしたい」


「アポはございますか?」


岩橋がそう返したので、睨みつけてやった。しばらく無言で抵抗していた岩橋だが、やがてコンソールを取りだして電話をかけた。


叱られているのかしきりに謝ってから、立花に向き直る。「お会いになるそうです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ