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40.遠藤瑠璃(1)


    ■□■□■




仲違いするかたちとなってしまったが、立花としては別に腹を立てているわけではない。


たしかに、『人魚』を引き合いに、軍より警察を下に見るような言葉を京子は発した。


だが、それをいう資格が京子にはあると、立花は思っている。海上ビルでのテロ制圧、立花自身の救出劇、京子なしで成り立つものはない。京子の力は本物なのだ。


その京子がいうのだから、『人魚』を追うのは危険きわまりないのだろう。ここからは文字どおり命懸けになる。


あらためて覚悟を決めた立花は、一度天を仰いでからタクシーを止めた。



まずはコウベ署に向かったが、手前の銀行で降りて百万おろした。マ対課のあるフロアーに行くも、少し離れたところから覗く。運よく真壁しかいなかった。


立花は自席まで行ってドシンと座り、斜め前にいる真壁へ投げつけるように三十万が入った封筒を渡した。


「なんすか?」真壁はキョトンした顔で封筒を開け、顔をしかめた。「いやでも……これは井川さんに貸したモノだし」


「うるせえなぁ。なにもいわず、とっとけよ」


「その……すでにお金は江見さんに……」


「江見だと!」


「……はい。僕以外にもいたみたいなのですが、全て江見さんが……」


「俺が何だって」


後ろから声がして、立花はふり返る。不遜な笑みを浮かべながら、江見が歩いてくる。


「井川の借金を返しているのか?」


「まあ、そうですな。別れた女房への慰謝料もあるんで、けっこうカツカツですわ」


「同期のよしみってやつか。俺にも半分もたせてくれるか」


心が熱くなる。どうやら江見という男を誤解していたようだ。


「嫌ですね」


「なんだと?」意図が理解できずに、立花はすっとんきょうな声をだした。


「だから嫌だといったんですよ。俺がヤツの借金を返してるのは、同期の義理でも友情でもない。ただの当てつけでっせ」


「当てつけって……そんなことのために大金をだしているのか?」


「当てつけだから金額も教えてやりましょう。三百五十二万。あのやろー、刑事だけじゃなく事務員にまで借りてやがった。まったく、しょうがねえーヤツですよ。同期の恥だ」


「キサマッ!」かっとなった立花は江見に詰めよる。


「なんすか? 俺のことより課長の相手をしてやってくださいよ。あの白ブタちゃん、朝から立花はどこだ立花はどこだと、ブーブーうるさかったですぜ」


「もうしばらく鳴かせとけ!」立花は残りの七十万を江見に投げつけて、フロアーから出た。そして、お互い素直じゃないなあ、と苦笑いを浮かべた。


次に、立花は覆面パトカーに乗り、遠藤姉妹のマンションに向かった。


私用の一般車両ではなく警察車両なので、防弾仕様となっており、車載コンソールにもセキュリティが入っている。それでも、『人魚』相手にどこまで効果があるかは疑問だった。


マンションの前に車を止め、エントランスに入る。瑠璃に電話して訪問の理由を話し、施錠を外してもらった。もっと煙たがられるかと思ったが、瑠璃はあっさりと了承した。


エレベーターで五階にあがり、部屋のインターホンを押す。こんがりと焼けた娘が出てきた。


前と同じく妹の瑠璃だが、前回と違うのは大きな眼帯をつけていることだ。


「あがってよ」瑠璃はいって奥に戻っていった。


眼帯のことにはふれず、散らかったリビングに入ってあぐらをかいた。


「さっきもいったが清宮の件だ。この前見せてくれた新しい彼女の写真を送ってほしい。あと、清宮がその彼女についていったことを、なんでもいいから教えてくれないか」


「働いてるクラブを知ってる」


「本当か! 店の名は!?」


「ただじゃ教えられない」と瑠璃がいうので、立花は財布だして万札を取りだす。


「そうじゃないの……」瑠璃は立花の隣に座り、眼帯を外した。殴られた痣があった。


そりゃまあ、モノモライってわけないよな。


立花はため息を呑み込み、「わかった、話してみろ」と瑠璃に頷いてみせた。


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