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31.新しい一条(1)

「おいっ! ふざけんなよ!」


真理亜が怒鳴るも、女はウインクで返す。


「ふざけてなんかないわよ。さてさて、私はこれで退散しちゃうけど、あなたたちのボスに伝えておいてくれる? むやみに首を突っ込むと痛い目にあうよ、ってね」


「わかったぁ。伝えとくぅー」


「好き勝手いってんじゃねーよ。このまま帰れると思ってるのか?」


真理亜の銃口はぶれることなく、女の眉間に向いていた。


「もちろん、無事帰るつもりよ」女がいうと、真理亜の銃が砕け散った。「三人のスナイパーが遠くから狙っているのだから」


「くそっ!」


「肉弾戦はただの余興。誘拐が成功しようが失敗しようが、海軍相手に舐めたマネしてたら酷い目にあうって、警告できればそれでよかったのよ」女は、由紀に倒された男たちに視線をやった。「KOされちゃった彼らは、ほっといていいよ。そのうち回収班がくるから。じゃあね」


女が手をふるなか、ワゴンは走っていった。


「舐めやがって!」


遠くなったワゴン車を睨めつける真理亜はほっておいて、由紀はとぼとぼ歩きだす。


辺りは薄暗くなっており、由紀はコンソールで時間を確認しようとしたところで、電話が鳴った。


京子からだ。電話にでて、はーい、と応じる。


「ピンクは近くにいるか? 何回電話しても繋がらないのだが」


「パパは寝てるよ」


「起こしてくれ。緊急事態だ」


「ダメだよぉ、パパはとっても疲れてるんだから。それに私は今、外に出てるから無理だよぉ」


「……そうか。では先にブルーにも伝えておこう。星川潤一郎が殺された。イガワやキヨミヤと同一の銃痕だ」


「ふーん」といいながら、由紀は考える。イガワとキヨミヤ……誰だっけか? しかし、思いだしたのは先ほどのことだ。「そうだそうだ。そーすいへの伝言を頼まれてたんだった」


「伝言?」


「そう、人魚さんからだよ。海軍をなめてたら、痛い目に遭うんだってさ」


「人魚……を名乗る人物に会ったというのか?」


「うん。誘拐されそうになったけど、人魚さんの子分をやっつけたの。そしたら、人魚さんも逃げちゃった」


「……ブルーだけでも今から来れるか?」


「むりー。パパと一緒じゃないとそこにはいかなーい」


由紀は電話を切った。




    ■□■□■




一方的に由紀から電話を切られ、京子は思わず舌打ちを落とす。


再度電話をかけようとしたが、一条からの電話が入った。一条にも、『クロガネ』と『人魚』について、調査を依頼していたのだ。


「何かわかったか?」


「はい、だいたいのことは。でも電話で話すようなことではないので……会えませんか? 僕は今、喫茶店にいます。本部からは車で五分ほどです」


由紀の話を聞くのは一条の後でいいだろう。


「すぐに向かう」京子はいいながら、車へと向かった。



自動運転にまかせて考えを整理していると、ふと疑問が湧いた。


一条は潤一郎が死んだこともつかんでいるだろうか?


潤一郎が死んだことを知らせてきたのは翠だった。その翠にも、亡くなった潤一郎本人から知らせがあるはずもなく、連絡をよこしたのは別のキョウダイとのことだ。


誰とは聞かなかったが、翠の口ぶりでは、潤一郎よりずっと嫌っているようだ。そのキョウダイから、半身がボロボロになるような銃で殺されたと、聞かされた。


そう話す翠に動揺している様子はなく、「こんなに早く殺されるなんて……お役にたてなくて申しわけないですわ」と、こぼしていた。


それにしても、翠のメンタルの強さにはあいかわらず驚かされる。潤一郎が殺されたのだから、翠自身もターゲットになっている可能性は充分考えられるのだ。海軍がいよいよ本気になったのかと思うと、京子ですら背筋が寒くなるというのに。



一条の言葉どおり、五分で指定の喫茶店に着いた。繁華街から少し離れた国道沿いにある、喫茶店というよりはファミレスに近い店だった。


中に入るとすぐに一条が見つかり、四人掛けテーブル席の対面に座った。


夜七時を回り、カップルや家族づれで半数近くの席がうまっていた。その中で一条は資料を広げ、ノートサイズのコンソールでなにやら作業をしている。


「待たせたか?」


「いいえ」


ふるふると首をふる一条はやはり年上には見えない。幼い顔立ちに、地味なメガネと色気のない髪、試験勉強中の大学生といった感じだ。



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