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28.『クロガネ』と『ニンギョ』

「侵入者迎撃システムがあるのに、どうやって中に……」手錠をかけられて床に転がる潤一郎が、呆然と口を開く。


「クモはアタシが退治したぜ。一匹残らずな」真理亜が悠然と部屋に入ってきた。


クモとは何のことだ?


立花は疑問に思ったが、重要ではないだろうとスルーして、あらためて部屋の中を見る。


二十畳ほどの大きさで、潤一郎の仕事部屋のようだ。オフィスデスクと椅子、さらに十台を超えるコンピューターが並んでいる。


立花は潤一郎をオフィス椅子に座らせた。


「争いに来たわけじゃない。協力してもらいたいことがある」


先ほど殴られた箇所はまだ痛む。正直、殴り返してやりたいと昂ぶっているが、冷静な声で話しかける。


「黙れカス! 話しかけるな!」


ヒステリックに潤一郎はわめき、マジでぶん殴ってやろうかとの思いがよぎったタイミングで、翠が部屋に入ってきた。


「みどりぃぃ! 俺というものがありながら、こんなオヤジとぉー!」


「そのかたとは特になんともありませんわ。あなたをおびきだすために、ひと芝居打っただけですわ」


「本当なのか? 信じられないぞ! 嘘じゃないというなら、俺の頬にも……いや、眼球にキスしてくれ!」


「うるさいですわ!」翠は真理亜の銃をかすめ取り、発砲。潤一郎の足の甲を撃ち抜いた。


「おっ、おい!」立花は慌てて翠から銃をもぎ取った。


だが、当の潤一郎は血を流しながらも、「愛の一撃、いてぇー」とケタケタ笑っている。


「右足にも穴を開けられたくなかったら、働きなさい」翠はメモリカードをデスクの上に叩きつけた。「この中に事件のあらましと、調べて欲しいことを入れてますわ」


「そういえば、戦隊ごっこをやってるんだよな。俺もまぜてくれよ。ケケケケケッ」


「ごちゃごちゃいってないで、とっとと調べなさいまし!」翠は潤一郎の顔面を殴りつけた。


「だから落ち着け!」立花は、翠の肩に手を回して押さえつけた。


「落ち着いてますわよ。放してくださいまして?」翠は冷たく返す。


「そうだっ、クソ刑事! 翠にさわんじゃねーよ。あと、手錠も取れ。手が使えないと、キーボードが叩けないだろ!」潤一郎は目を充血させながら睨みつけてきた。


立花は京子に視線をやる。京子が頷いたので、手錠は外した。


すぐさま潤一郎はキャスター付きの椅子を滑らせて移動し、キーボードをリズミカルに叩き始めた。


「足を撃たれてるのに、どうしてお前はそんな元気なんだ?」真理亜が眉をあげた。


「愛の力だ!」と潤一郎が嘯くので、立花は「クスリをやっているのだろう」と確認するようにいった。


「証拠あんのかっ!」


「証拠はない。だから逮捕もしない。だが、長年刑事やってると血液検査なんかしなくてもヤク中かどうかなんて簡単にわかっちまう。顔色や目の動き、体臭、言動、いろんな要素で」


「なにがぁ、『だから逮捕もしない』だっ! 恩着せがましい! たとえ証拠があっても、俺の力が必要だから逮捕なんてできないくせによぉ!」


潤一郎が吠えたが、立花は取り合わなかった。


「あとは潤一郎に任せて、ワタクシたちは本部に戻りましょう」そう残し、翠はさっさっと部屋を出ていった。


「そうしよう」京子が頷き、立花もそれに従った。




本部までは、立花の車と京子の車に分かれて戻った。由紀と真理亜は立花の車、翠は京子の車だ。


拘束されて暴行、あげくのはてには味方に撃たれたのか……。


自動運転に任せて脱力していると、やがて身体が痺れだした。やはり心身ともに相当なストレスだったのだろう。殴られた顔面と撃たれた胸部、その痛みもぶり返してきた。


泣き言などいうつもりはないが、睡眠薬でも呑んだような強い眠気には従うことにした。


「パパ、着いたよぉ」


由紀に肩を揺すられて、立花は目を覚ました。まだまだ身体は重いが、気合いを入れ直して車から出た。


本部に入り、全員が円卓に座ると、京子が前置きなしにいった。


「車内でさっそく、星川潤一郎からグリーンに報告があった。『クロガネ』と『ニンギョ』。この二つがキーワードとしてあがったそうだ」


立花はゴクリと喉を鳴らした



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