27.ヒロイン救出作戦(2)
真理亜は扉の外で尻もちをつき、「なにすんだっ!」と叫ぶと同時に、数本の赤い閃光が天井から斜め下に伸びた。
赤い筋が煌めいたのは一瞬だが、真理亜がいた場所から煙があがる。
「暗くてはっきりは見えなかったが、天井に蜘蛛のような形状のロボットがいた。侵入者を検知して攻撃するのだろう」
「やっかいですわね。どれくらいそのロボットはいるのかしら?」翠が首を傾げる。
「ねぇねぇ、真理亜ちゃん。さっきの赤い光は銃で打ち落とせないのぉ?」
「バカかお前はっ! ナマリ弾でレーザーが落とせるかっ!」
京子は真理亜に視線をやった。「例の一件では、テロ犯の銃弾を撃ち落としたと聞いている。レーザーではなく実弾だったら、今回も同じことができたのか?」
「難しいな」真理亜は鼻を鳴らした。「アタシだって弾丸より速く動けるわけじゃないし、未来を予知できるでもない。相手の目、呼吸、筋肉の動き、いろんな情報を複合して、撃つ気配を感じとっているだけだ。そのタイミングに会わせて、相手の銃口めがけて撃てば、弾丸落しができるのさ。だが、機械相手だと、撃つ気配はわからない」
「撃つ気配か、なるほど」京子は頷いた。
実際、京子もそういった気配を感じとることは多い。真理亜ほどの正確無比な射撃能力はないが、撃つ気配を感じとって回避したり、攻撃を先んじることはままあるのだ。
「弾丸落しはできないとしても、蜘蛛形ロボが動いたら撃ち落とすことはできるか?」
「楽勝だな。まあ、実際にはあの蜘蛛の強度がわからないから、レーザー発射口の先端を狙えばいいだろう」
「よし」と、京子は軽快な声をあげ、扉の前で屈伸運動をはじめた。
「なにをなさるつもりですの、総帥」翠は眉をよせる。「まさか、中に入るつもりじゃあ、ないでしょうね! お待ち下さい。きっと、あのレーザーロボを止める方法はあるはずです!」
「こんなもん用意するような変態ヤローなんだぜ」答えたのは真理亜だ。「グズグズしてるとウチのヒロインが手籠めにされちまう」
「手籠めにされるかはともかく、ピンクの安全を優先するには、一刻も早く救出するべきだ。イエロー、準備はいいか?」
「ああ、いつでもいいぜ」真理亜はもう一丁の銃をだしてかまえる。
天井のほうに向けた真理亜の眼を見て、京子の心はヒリついた。恐ろしいほどの集中力を感じたのだ。
頼もしい、心中でつぶやきながら、クラウチングスタートの態勢をとった。
「いくぞ!」「まかせなっ!」
京子は駆ける。天井に視線をやることなどなく、一心不乱に走る。
背後から立て続けに銃声が響くなか、三十メートルに近い距離を四秒で走り抜けて、光を放つドアの先にダイブ。
中には暴行の痕がある立花と、その後ろに隠れて立花のこめかみに銃をあてがう病的に細い男がいた。
まちがいなく星川潤一郎だろう。
「動くなよ、動いたら――」
潤一郎がしゃべり終わる前に、京子は判断した。
立花の胸をめがけて銃を放つ。
その衝撃で立花は潤一郎を巻き込んで倒れた。京子は発砲と同時に二人めがけて走っており、一瞬で潤一郎を捕縛した。
潤一郎は抵抗するどころか、おそらく何が起きたかも理解できていないはずだ。
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外が騒がしくなったと思ったら、いきなり京子が飛び込んできて、驚く暇もなく銃で撃たれた。
鈍器で腹を殴られたかのような衝撃と痛みが奔り、息ができない。
声もだせずに苦しみ、なんとか呼吸ができたところで、すでに潤一郎が京子に拿捕されていることを認識できた。
「ピンク、手錠を」
立花は嗚咽を漏らしながら頷き、潤一郎に手錠をかけた。そして、恨めしげに京子を見やる。
「防弾ウェアを着てるのはわかっていたとはいえ、いきなり撃つのか?」
「素人が銃を長く持っていると、手の震えで誤射する可能性が高くなる。防弾ウェアを利用して、最速で制圧するのが最も安全だと判断した」
表情こそ不満げなままの立花だったが、京子の言葉は充分理解できたし、その判断も誤りではないと思う。
だが、それを一瞬で判断し、躊躇なく人を銃で撃てるものなのか?
少なくとも自分にはできない。
それが最適だとわかっていても、引き金を引く勇気はない。まずは、犯人に話しかけてしまうだろう。「バカなことはやめろ」、「落ち着くんだ」、などといいながら、説得を試みるのだろう。
星川潤一郎のような説得が不可能であろう狂人相手でも。
立花は身震いした。
三上京子、軍人で戦闘のプロフェッショナル。これほどまでに警官とは異なるものなのか?




