8話
隣にたった一人の友達がいるだけ。ただ一人、話しかけたら答えてくれる人がいるだけなのに。
それだけで私の世界は変わった。
きらきらして、楽しかった。心から楽しかった。
きらきらした楽しい感情なんて、とっくに忘れてしまったと思っていたのに。それが、呼び起された。
ずっと遠いと思っていた青春が味わえている気がして。
嬉しかった。
私は、大川って呼んでいた。大川は、私と夕菜と呼んだ。たったそれだけなのに、なんだか恥ずかしくて、わくわくするような、不思議な感じがした。
正直なことを言うと私も遊星って呼びたかったけど、さすがに馴れ馴れしくて嫌かなって思って言い出せなかった。こんなやつに名前で呼ばれても。私なら嬉しくない、と思う。多分。
やっぱりなんだかくすぐったい。今までになかった、楽しいという感情に振り回されている自覚はある。
話しかけたら、返事してくれるの。席が隣だから、授業中にもたくさん話して、くだらないことで笑い合える。大川は、私のことを一人の人間として扱ってくれている。そんなかんじ。
こんな日々で、私は普通に近づけた気がしてしまった。
だけどさ、多分。本当に普通の人にとっては私のこれは、普段の日常なんだろうなって。思うけど。
私にとっては全然違う。ずっとあこがれていたから。普通になることに。
私は、「普通」じゃなかった。
生まれつき、才能も、性格も、容姿も……。私は恵まれすぎていた。
普通よりも運動神経が良くて
根っからの性格がよくて
自頭がいいからなにもしなくても学力が高くて
顔がだれから見ても美少女と言われるくらいには整っていて
人に好かれやすかった。
私が、まだ「普通」でいられたころはそうだった。まだこんなにひねくれてなかった。
私のことを、周りは羨ましいと言った。努力しなくても恵まれてるんだから、いいよねって。でも、私はそうは思わない。私が普通じゃなかったから。私にそうやって人より優れているところがあったから。
だから私は今、いじめられているのだから。
自分の好きな人が、私に告白したから。
だから私を恨む
周りに天才と言われていたのに、スポーツで私に負けたから。
だから私を嫌う。
テストの点数で何もしていない私に負けたから。
だから私の邪魔をする。
そんなことからどんどん大きくなっていった私への負の感情から、私へのいじめが生まれた。劣等感とか、嫉妬とかから始まったものなんだと思う。きっと、私は恵まれすぎていたんだよね。
原因が私にあると言われたら、それは間違っていないのかもしれない。まあ、私は何もしていないけれど。だけどさ。だけど……「普通」の人がたくさん努力して手に入れるはずだったものとか、欲しいけど持ってうまれなかった才能とか。そういうのを持っている私はたしかに妬ましかったのかもしれない。でもね。
好きな人できたから、協力してほしいの!
そう言ってきたのはそっちだったよね?
正々堂々勝負しような!
私をそうやって誘ったのは君だよね?
どこまでが本当だった?本当は私を陥れるための嘘だった?
違う。そんなわけなかった。最初は違ったんだよね?
友達だった人と私は、最初は仲が良かったね。私も、「普通」でいられたよね。
だけど、圧倒的な才能に自分が負けた屈辱と、悔しさと。なんで、なんでって考えるうちに、私を恨んじゃったんだよね?
時がたつにつれて、才能の違いとか、はっきりしてくるから。私は、自分のこの能力を自慢したいわけじゃなかった。ただ、何もしていないのにできてしまうだけで。それがきっと周りにとっては異質なんだろうけどさ。私は一度だってこの恵まれすぎた自分で良かったなんて思ったことはないよ。
私も「普通」がよかった。
そんな些細なことで友情が壊れてしまう。
人間の言う、友達や絆の脆さを身をもって知った。
だから、私にとっては大川と話せること、一緒にいてくれること。みんなにとっては普通のそんなことでも、私にとっては全てだった。
たとえ、君のこの行動は哀れみからくるものだとかの理由だとしても。
それでも嬉しかったの。




