2話
陰口を言われるのは、怖い。
今よく話してくれる子たちが、ほんとは私のことを陰で悪く言っているんじゃないかって疑ってしまうから。どこまで信じていいのか。敵?味方?私のことどう思ってるのかな。どうして話しかけてくるのかな。いつもぐるぐる考えちゃう。何をどこまで話していいのか、わからなくなる。
まだ直接言われてた方が気が楽。仲の良い人に、私が好きだった人たちに裏切られて、すごく怖くなった。「秘密だよ」って交わし合って笑いあったこと、全部、次の日には秘密じゃなくなってた。失敗談、好きだった人、他にも、全部、全部。
誰も私のことなんて好きじゃなかった。
毎日怯えて、世界を嫌って。全部全部大っ嫌いで。生きているだけですごく疲れるんだ。なのに、疲れたり暗い顔してると余計にいじめられる。弱みを見せたら、そこに漬け込まれる。
毎日笑って……。笑顔以外の表情はあまり浮かべなくなった。というか、本心を顔に出さなくなった。出せなくなったのほうが正しい……のかな。ずっと嘘の仮面を張り付けて、悲しそうな表情も、苦しそうにも、嬉しそうにもできるようになった。私、演技の才能あったのかも。
声のトーンと表情で人をだませるようになって余計に苦しかった。視覚と聴覚で人のことだいたい判断するよね。心の奥底にあるものなんて、隠してしまったら誰にもわからない。見たそのままの私をみんなが信じた。全部全部、嘘ばっかりなのに。
どうせ、そのうち消える命。どうなってもいいや。そう思うのと同時に、怖い、助けて。って思っちゃうんだ。もし、生きたいと願えたら。私の心は少し救われたのかもしれない。生きたいなんて思えなかった。死にたいって思うことは多々ある。だけど、生きたいって思えるようなことは……ない気がする。この先長い人生を生きたとして、また人に搾取されて傷つけられてっていう未来しか思い浮かべられないんだよね。
そういえば……心から笑ったのは、いつが最後だろう。もう全く覚えてない。記憶にある私は、気づけばずっと嘘の仮面を張り付けている。空っぽの笑顔で、本心も何もかも隠して。ただただ罪悪感と恐怖で心をすり減らしている。楽しいとか、嬉しいとか。感情が揺れ動けば動くほど、期待なんてすればするほど辛くなる。辛いも、悲しいも、できるだけ、感じないように。ただ日々を淡々と何も感じず過ごすことでやり過ごしている。
私にはルーティーンがある。それは、家の前で深呼吸をすること。自分の心を落ち着けるために。悲しい、辛い、苦しい……。全部隠し通せるように。今日も学校楽しかったよって笑って言えるように。全てを、がんばって落ち着けて。
そんで、「ただいま!」そう、元気よく言うの。毎日、とびきりの笑顔で。私、笑顔上手になったでしょう?毎日やってるから上達したんだよ。明るい声のトーン。遠くから聞いていても、今日も楽しかったんだなって分かる感じの明るさ。いつもこうやって家族の前でも私は嘘つき。
私は弱いから。
「助けて」って言いたかった。言えなかった。また、「仕方ない」って言われたら?仕方ないわけがないのに。私のことを否定されたら、私は今度こそ多分、もう無理だ。私が普通じゃないことでいじめられることが仕方のないことだと言われるのなら、普通じゃなく生まれてしまった私は罪なのかな。
ランドセルを下すと、なんだか気が抜けて我慢していた涙が零れ落ちてしまいそうになる。だから、必死になってこらえるんだ。私は、絶対に誰かの前で泣かないって決めていた。人前で泣くと、弱虫だって笑われてしまうから。
そうしたら、泣けなくなった。感動する映画を見ても、どんなに殴られても、蹴られても。私は泣けなかった。痛いとも思うし、苦しいとも思うし、怖いとも思う。感動だってするんだよ。でも、そこまで。私の感情が表に出るようなことはないし、涙なんてとてもじゃないけど流せなかった。
気が付けば、私の感情はロボットと同じようになってしまったのかもしれない。
あと半年。
今日も長い一日が終わった。




