19話
散々泣いてスッキリした次の日は、快晴だった。秋なのに、まだ少し暑いや。
「っ、よし」
私の最後の戦い。今までとは違うことをすることにした。
登校したらすぐに通っていた中庭。あそこは、あいつらがたまっている。逃げたらだめだとか思い込みであそこを通っていた気がしてならない。
一度第三者の目線で自分の行動を見てみると、自分には以外にも逃げられる方法があったことを知った。
本当に視野が狭くなっていたんだ。
ただ、近づかなければいいだけだったかもしれないのに。端から見たら自らいじめっ子の方に近づいていくヤバイやつだったのかも。
私は、中庭を通らず、大川が登校してくる裏門の方にいた。ただ朝一番におはようと言いたいだけな気もするけど、それはそれでいい変化だと他人事のように思った。
裏門の方にアイツらはいない。私が登校するときに通るのは中庭だから。話し相手も居るわけでもなく、日陰に入って大川が来るまで空を眺めてぼーっと座ってる。
その時間が私の平穏を表しているみたいで、なんだか好きだと思った。日差しは暑いのに風が吹くと少し冷たくて、不思議な感じ。一人だけど、なんか、たのしい。
「夕菜?」
「あ、おはよう!」
裏門から、大川が登校してきた。こんな待ち伏せみたいなことされると思っていなかったのか、驚いている。ストーカーみたい……?いや、そんなことないよね、うん。
「おはようだけど……なんでここにいるの?」
心底不思議そうに聞かれたけど、大川に朝一番に会いたかったからなんて言えるわけもなく、
「今日は逃げてみたの」
とだけ答えた。私は人と話すのあんまり得意じゃなくて、主語が抜けてたり意味わかんないこと言っていることが多い。
きっと今の言葉もうまく伝わっていないと思う。
「そっか」
それでも大川は、少しうれしそうに笑ってくれた。
それだけで、私も幸せな気分になった。
それから、一緒に教室まで行った。たくさん話して、今までだったら暗くて嫌いだった登校が楽しいと思った。
「おはよう」
「……おはよう」
教室に隆樹たちがいるのが見えて、恐怖を感じた。
逃げたこと、バレてるよね。私が意図的にあの場に行かなかったこと、わかったよね……。
私が怒鳴られたりするならまだいいけど、大川にまで被害が及ぶようなことがあったら……。なんて考えて、どんどん怖くなる。
私のせいで、大川が?
まだ暑い日なのに、指先がどんどん冷たくなる。
「夕菜、大丈夫?」
大川が、心配そうに私の目を見ている。
「……大丈夫」
そうだ。変わるって決めたんだ。
いつまでも、このままじゃダメ。
「夕菜」
隆樹が、私の方を見た。
あ、また……。罪悪感で押しつぶされそうな顔してる。
この顔をしている隆樹には、強く出られない。
「なに」
声、震えてなかったかな。ちゃんと、堂々とできてるかな。
「昨日も言ったけど……ごめん」
「うん」
「ほんとうに、ごめんなさい」
昨日とは違って、人前だ。人前で、見られてる状態でそれでも隆樹は謝罪して見せた。
「俺も、ごめんな!」
「ごめんって、遊びだったんだよ!なあ、許してくれるよな?」
隆樹の取り巻きたちも、一人ずつ謝罪してくる。私、今謝られてるのか。ごめんって。
「……」
許す?どうして?なんで許してもらえると思ってるんだろう。
取り巻きたちはどうして謝っているのかな。隆樹に言われたから?どうみても、ヘラヘラしてて許されて当然みたいな顔して。人を小馬鹿にする態度を崩さない。反省してない。
「夕菜……」
心配そうに私を見る大川に、笑って見せる。
私はもう、大丈夫。
「隆樹。隆樹が謝れって行ったの?」
「っ、あ、うん」
「でもさ、反省する気、ないよね?」
言わされてる感が見え見えだよ。
「なんだよ!夕菜のくせに!」
「俺達が下手に出てやってんのに何様だよ!」
「黙れよ」
いつも自分に向けられているのとはまた違った、低い低い声。それが隆樹から発せられてると気づくのに、少し時間がかかった。
「な、なんだよ隆樹」
「ほんんとうに、ごめん。夕菜」
「嫌だよ」
許さないよ。許してしまったら、過去の自分が報われない。毎日傷ついても笑ってた私の意味がなくなっちゃう。
「はぁ?だから、何様だって……」
「うん」
「おい、隆樹!何やってんだよ!」
言わなきゃ、いけない。きっと、これは弱みになる。漬け込まれることは、わかってる。でも、言わなきゃ前に進めない。




