16話
私は、今日。宣言通り学校に来た。
「おはようっ!」
いつも通り元気に登校班で登校。行きたくない。
でも、そんなこと口には出せないから。今日も笑おう。
一日。たった一日だけど、大川に会えなかったことは少しさみしくて。自分でも驚いているくらいだ。
きっと、少しずつだけど、変われているはずだから。
いつか、今よりもう少しだけ、「普通」に近づけたら……。
「あれ」
今日は、あいつらいない。
なんとも言えない気持ちになる。けど、きっと……いいこと。嬉しいこと、なんだよね?
……こんなに簡単に。こんなに、こんなにも簡単に楽になれるの?こんなふうに私も、普通に近づけるなら、どうして今まで何も変わらなかったのかな。
いじめられなくなること。それは、きっととてもいいこととで。今までよりも少しだけ、色んな人と私は関われるようになるだろう。
だけど。
今までの私が、一人で頑張ってきた私がそれじゃあ報われないんだ。
「……おはよう」
ドクンドクンと、心臓が大きく脈を打つ。教室に入るとき、挨拶を、してみた。まだ小さい声だけど、日進月歩ってことで、ひとつ。
その声に、驚いて私の方を見た子たちもいた。夕菜は、きっと今まであいさつしない人だったんだな。
多分私は、いじめが怖くて、自分の殻に閉じこもりすぎたんだと思う。周りがほとんど見えていなくて、人が怖くって。きっとすごく暗い顔をしていたんだろうな。ほんとうに、余裕がなかった。
私は、何も見えていなかったんだ。すごく、身をもって実感した。
少し遠くを見れば、心配そうにこっちを見る子がいて、隆樹たちにはもう誰も近づこうとしなくって。直接的ではないけれど、私にも味方が付いてきているのだと思った。
本当は……怖くて立ち向かうことはできなかったけど、心配してくれていた人もいたんだと思う。
すべてが敵だと思ってた。誰も、味方じゃないって。誰一人として、わかってくれない、助けてくれないって。そう思ってしまうことは、今でも変わらないけれど。でも、全部が敵じゃなかったんだよ、きっと。
世の中にはたくさん人がいる。そのなかで、私はきっと一部の敵しか見えていなかったんだ。
恐怖心は消えたわけじゃないけれど、少しずつでも周りを見渡して前を向こうと思う。
「おはよう、夕菜」
「わっ!」
後ろから、登校してきた大川が顔を出した。
来てたんだ……。気づかなかった。
「おはよう、大川」
言い方を真似して挨拶したら、大川は驚いた顔をした。
「大川?」
大川は、驚いた顔のまま言った。
「夕菜が、笑った……」
「なに?そのレアな物見たような反応」
思わず、くすっと笑ってしまった。
「いやいやいや。レアだよ!超レア。気が抜けたように笑ってるとこ、初めて見た」
あ、確かに。私、今。嘘じゃなくほんとに楽しくて笑ってた。
「確かに、そうかも」
大川は、自分のことのように嬉しそうに笑った。
「いつもも可愛いけど、今の方がずっと可愛いよ」
「……え?」
か、可愛いって……。
顔が熱い。自分の心臓の音が、耳にまで届く。これって……みんなに聞こえていないのかな……。ドキドキしすぎて倒れそう。
「あ、ありがとう?」
見ると、大川も真っ赤だった。照れるならなんで言ったん。とは思うけど、嬉しかったし言わないことにした。
きっと私は、今までで一番自然に微笑んでいた。




