13話
「お母さん」
今までも、何度呼んだことだろう。ただ「助けて」って言いたかったの。
「何よ、夕菜。今忙しいの……ああ、もうこんな時間!仕事に行かなくちゃ。で、なによ?さっさと言いなさい」
「なんでもない」と言いかけて、やめた。それじゃいつもと変わらない。
「今日、学校休みたい」
「は?何言っているのよ。あんたまで私にストレスをかける気なの?」
「っ、そんなつもりは……!」
「なに?夕菜まで私の被害妄想だって言うの?」
これは、どれだけ理不尽だと思ってもYESと言ってはいけない。
「ごめん、お母さん。なんでもないよ」
「そもそも!熱もないのに学校を休むなんてダメに決まっているでしょう?さっさと準備して行きなさい」
「……はい」
「まったく。わがままなんだから。一体誰に似たのかしら……ってもうこんな時間!今日は始業早いから先に行くからね!戸締りちゃんとしなさいよ!」
「うん。もちろん。いってらっしゃい」
やっぱり、だめ、か。そんな気はしてた。お母さんはいつも厳しくて、仕事、忙しそうで。
きっと私のことなんて、見えていない。いないかのように扱うことも多くて。話しかけて、聞いてもらえただけ幸運なほう。
結果は、ダメだったけど……。自分で言えただけ、進歩、なの、かな。進歩だよね。きっと変われてる。
結局昨日は教室で倒れて、保健室で休んでいたらしい。本当は病院にって話もあったらしいのだが、親に連絡がつながらなくて許可が出せなかったらしい。
私が倒れたことでいじめは公となり、明日からしっかり会議をする、と保健室の先生が教えてくれた。
これでかかわっていた生徒も見て見ぬふりを続けていた先生の態度も、見直されるだろう、とのことだ。
そして、これらの一通りの報告は保健室の先生が、両親にもしてくれているはずだ。だから、私が昨日学校で倒れたことも、学校で酷いいじめにあっていることも知っているはずなのだけど……
いや、多分知らないか。
きっとお母さんもお父さんも、夜お酒を飲んでベロベロなっていたのではないかと私は思っている。だから、今日は記憶が抜けて何にも覚えていないのだろう。
こういうことは、しょっちゅうあるから、私はもう特に気にしていない。そんなもんだ、と思っている。
あ、あと。教師側にも、一人味方が付いた。保健室の先生の、綾香先生。
「辛くなったりしたら、いつでもおいでね。朝から保健室にいてもいいんだから」 と言ってくれた。
きっと先生は、なんとなく私の親には私の話、たいして聞いてくれないと感づいていたのだろうな。
「行ってきます!」
いつも通りにこっと完璧スマイル。笑うことは、もう慣れっこだから。
今日は、登校班の班長はお休みにしてしまおう。私は小学生が絶対にいない方向に歩き出した。そして、公園にたどり着いて、周りを見渡して。ほかには誰もいないことを確認して……。
「今日、遅刻だよなあ」
いつもは、ずる休みなんてしないし、しようとも思わない。
「まあ、どうせ誰も心配なんて……」
と言いかけて、やめた。
あの優しい大川は、絶対に心配してくれている。そして、私の友達のあの3人も。あの元気な夕菜がって、きっと心配してくれている。
……昨日のこと、もう広まっているんだろうか。広まっているんだろうな。
今頃、あいつらはきっと校長先生とかに呼び出されて、事情聴取?みたいなことされてるんじゃないかな。
「なんで」
なんで?
「なんで?こんな簡単なことだったなら……!」
あれ、おかしいな。景色がゆがむ。
「なんで今まで……っ!」
たくさん傷ついた。
苦しかったし、怖かったよ。
でも誰も助けてくれなかった。
なのに、味方はいなかったわけじゃなくて。
きっと、私の視野がせまくなっていただけで。
本当は、もっと、……
「どうして?」
それでも。
「どうして誰も助けてくれなかったの?」
「一人で辛かったよ。笑って耐えなきゃって、いつも元気でいなきゃって」
「たくさんたくさん嘘をついた」
「自分の気持に嘘をついた」
「自分の心がわからなくなるくらい、たくさん嘘で塗り固めたんだよ」
「もう、手遅れなのに……」
「どうして」
「なんで今更!」
「なんでっ……!」
涙が溢れて止まらなかった。




