10話
話せば話すほど、大川は優しかった。休み時間も、大川と話しているのは楽しくて。ついつい時間を忘れてしまう程だった。
ある日、よく私をいじめる、竹田隆樹が言ってきた。
「夕菜って、異性として遊星のこと好きなんだろ?」
イセイトシテユウセイノトコスキ?遊星のこと、恋愛として好き?ってこと?
「ちっ、違うよ!」
そもそも大川は、私がかわいそうだから一緒にいてくれているだけなんだろうし。
それに、大川には迷惑をかけたくない。
ずっとこんな私にも優しくしてくれている大川が、私のせいで傷つけられるのは嫌だ。
「友達としては好きだし、大切だよ?でも、恋愛とかじゃない」
これが、今の私の本心だ。
好きだし、大切だ。すごく。だけど、恋かどうかって言われたらどうなんだろう?
私は、恋ってしたことがなくて、周りの子たちを見ているだけだった。
正直に言うと、恋愛として好きなのかなんてわかんないし、恋というものがあまりよくわからない。
……きっと、大川は私みたいなやつよりももっと優しくて、いい人と……。大川に彼女とかできたら、私とはあんまり話せなくなるのかな。
それはちょっと嫌だな。
大川とずっと一緒にいたいって思う。それがどんな意味なのかは私にはちょっとよくわからなかったけれど。
「おーい!みんな聞いたか?夕菜は、遊星のことが好きだってよー!!」
大声で叫びだした隆樹。あ、ちょ。待って。その言い方、絶対に誤解されるやつ!
「ちょっと!違うってば!!!」
必死に否定するけど、時すでに遅し。噂の広まるスピードはえげつない。
「え、やっぱりそうなの!?」
やっぱりって何よ。やっぱりって。
違うのに。あーあ。ほんとに噂って広まるの早い。大川に迷惑かけたくないのに。
「最近仲いいよねあの二人!」
それはまあ、否定できないけど。
「えーでもちょっと意外。もっと上目指せると思うんだけどな」
上?
「遊星なら俺の方が上っしょ?」
「いや、やめとけ?」
「冗談だわ」
なんの話だろう。なんか、すごく嫌な感じ。
人のことを貶めるような口調。良くないこと?大川にとって、良くないこと?私の…せい?
「あれ、夕菜。どうかした?」
「っ、お、大川……」
なんで今来るかな!?
今来たら、変な誤解が……!
「お、例の!」
「違うから!」
「なあ遊星!!こいつ、お前のこと好きなんだってよ!」
「はあ?」
ごめん、大川。巻き込んてごめん。
誤解解かなきゃ、訂正しなきゃ!!!
「違うって言ってるでしょ!!!」
ビクリ、と周りの人の肩が跳ね、教室がシンと静まり返る。
「っ、あ……」
やってしまった。つい、大きな声がでてしまった。
クラスメイト達が何事かと私達の方をみてくる。どうしよう。注目されたかった訳じゃ……。
「夕菜……?大丈夫か?」
大川の方を見ると、戸惑いつつも、寂しそうな顔をしてた。
「隆樹。夕菜が俺のこと好きなんて、そんなわけないだろ?」
「まあ、そうだよな!」
隆樹のそんなひと言で教室は元の空気に戻っていく。
「大川……!」
「大丈夫。噂もすぐに消えるよ」
違うの。違うよ。そんなことはどうでもいいの。どうせいつものことだから。
そうじゃない。なんとなく、大川が遠い気がして……
「大川、違うの、待っ……」
「なにが?」
ビクリ、と肩が震える。
大川のものとは思えない冷たい声だった。
「っ、お、大川……?」
「ごめん。怒りたいわけじゃない」
そう言って苦虫を噛み潰したような顔をした。
「っ、大川!」
キーンコーンカーンコーン
私は、大川を呼び止めて何を言いたかったのかな。
その日はやけに静かな大川と、ひと言も交わさずに1日を終えた。
今までで一番つまらない1日だった。




