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花仕舞師  作者: RISING SUN
第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
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93/252

93話

 幸吉は気を遣うようにゆっくりと歩いた。朱鷺にはもちろんのこと根音と根子に合わせるように歩いてくれる。

「清殿もよく、お雪婆に怒られたか? 儂はよく怒られた。野原をよう走り回って膝や肘を擦りむいた。その度に(よもぎ)を揉んでくれて傷痕に塗り込んでくれて、「お父やお母に迷惑かけるんじゃないよ」って……蓬と言えば蓬の団子もよぉ、作ってくれたし……あれはうまかった! 昨日、清殿たちが団子を食いよった姿、まるでお雪婆と小まい頃の儂らみたいじゃった……」

 次々に昔話に一人、花を咲かせる幸吉。

「そうですか。手前はお手玉やあやとりなんか少々……お団子の作り方を教えてもらいました」

 清は話を合わせるので精一杯だった。藁葺き家や風景は覚えていても、ない思い出を作り出すことが心苦しくなっていた。

「やっぱり女子よのぉ……そいで文字も少しばかり教えてくれたり……」

「そうですね……」

「お雪婆のおかげじゃった。お館さまの屋敷に入って丁稚(でっち)として仕えた頃も少しばかりでも文字が書けたもんだから親方さまに目にかけてもらえた。お朱鷺……お雪婆がおったから……おまえと縁を結ぶことができたと思っとる」

 朱鷺は、よほど幸吉がお雪と会いたいのだなと言葉の弾みで実感した。

「それは、ほんに私からもお礼を言わんとですね、お雪殿に……」

「ほうじゃ、それだけ恩返しをしたいお方じゃ……元気じゃろうかのぉ。それより覚えてくれとるだろうか? 会うのは楽しみじゃが、おまえは誰だ? と言われたらどうするかのぉ~。 それと一度だけ出した文は持ってくれとるか、持っといてくれたら嬉しいのぉ、あれは一生懸命書いたもんだから」

 清は黙って笑みを浮かべたが、幸吉がお雪のことを話せば話すほど反花(そりばな)のケケケッといやらしい笑みの言葉が心に刺さった。


 ──「それは優しさか? 会いに行った先に悲劇が待っとる。そしてさらに待っとるのは死の運命……先延ばしにあるものは……あの男の苦しみのみ……滑稽、滑稽……静さまの実の妹にしては滑稽過ぎるか」──


 朱鷺に優しく話し掛ける幸吉の左手甲に浮き上がる花紋様の痣は確かに濃さを増していた。

「幸吉殿……あの……」

 清は声をかけた。

「どうされた……そんな思い詰められた顔をして?」

 幸吉は清の表情に映る影を見て訝しく思った。

「もし、お雪さ……お雪婆がなくなっていたら……どうされるつもりで……?」

 唐突な清の投げ掛けに、先ほどまでの笑顔が幸吉から瞬時に消えた。

「なぜ、そんなことをおっしゃる? 清殿……」

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