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花仕舞師  作者: RISING SUN
第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
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90/252

90話

「清さま……」

 根音が心配そうな顔をする。

「確かに反花が言うことは一理ある。けど花紋様はまだ枯れきっていない。根音、根子……今、一度戻らなければ……お雪殿のいた村に……そこにきっとあの御方は向かわれる。そして……姉さまもそこに向かうはず……私たちはただ仕舞うだけではない……未練や後悔を祓ってこその花仕舞師。滑稽だと罵られても成すはあの御方の徳を成就さすること……」

 清の目は憎悪と本文の狭間で揺れていた。

「行きましょう……清さま……」

 根子が言う。

「いざ、参ろう……再び、お雪殿とあの御方の想い出の地へ……そしてこの旅の始まりの場所へ……」

 清たちは男の後を追った。できれば同行する形で旅路を共にできればと思ったからだ。男は大きな米問屋に入っていく。看板は檜の一枚板に「新山升や(あらたやまますや) 正米穀物商せいべいこくもつしょう 以信義為商道しんぎをもってあきないのみちとなす」と漆で塗られた板に文字が彫られ、金箔を施してあったであろう。今では黒く煤け、ところどころ剥がれている。それでも、剥がれた金箔文字は長年、この町を支えてきたであろう、趣はずしりと重みが宿り、心に響いてくる。信条も掲げられ、この店の家主の心意気までも静かに伝わってくる。

「どうするんですか?」

 根子が見上げて聞いてきた。清は思案した。自然に、かつ同行できる方法はないものかと考えを巡らせた。

「うまくいくかはどうかはわからないげど……根音、根子……今からあなたたちは私の子です。心して思い定めなさい」

「「えっ?」」

 二人は突然の申し出に目を丸めた。

「今からおっ母と呼ぶのですよ。じゃあ、行きましょう」

 二人は何がなんやらと思いながらも清の後をついていく。

「ごめんくださいまし……」

 清は自然を装うように米問屋、『新山升や』に入っていく。

「はいはい……いらっしゃいませ。いかがなご用ですかな?」

 店番がひょいっと顔を出した。

「つかぬことお伺いしますが、こちらに耶三淵(やみぶち)の村の生まれ在所の方がおると聞きまして……実はそちらに行きたいと存じ、道を尋ねたく、暖簾をくぐらせていただきました」

「耶三淵? あっ、若頭のことですかな? 少々、お待ちくださいな」

 店番は奥に引っ込んだ。奥から男が出てきた。

「はいはい……耶三淵とな……あっ! 先ほど団子屋の……」

「えっ? えっ……耶三淵の生まれの御方でござんしたか? これは奇遇ですな」

「なるほど、なのでその格好でしたか?」

 男は清たちが旅支度の格好でいることに自然と合点がいった。

「はい、実は手前も耶三淵が生まれ故郷、しかしながら小まい頃に親を失くし、奉公に出されました。年が経ってそちらで稚児(ややこ)が生まれ、久しぶりに故郷に顔を出したく、お暇をもらい、出たのはいいのですが、なんせ小まい頃の話。当然、道を覚えてるわけでもなく道に迷い、仕方なく尋ね回ったところ、こちらに耶三淵が故郷の方がいると聞いて……」

「なんと道に迷われたか? だからこちらをお尋ねに……」

 心配そうな顔をする男。

「はい……お世話になったお人にこの子らの顔を見せたくと思うたのですが……これ、根音、根子、挨拶をし……」

「ごめんやす」

 根音が元気よく挨拶をすると、

「ご、ごめんやす……」

 少し照れたような顔で清の裾を掴んでもじもじと恥ずかしそうな顔をする。

 根音と根子が陰から顔を出し男に挨拶する。

「これはこれは、あなたさまの稚児でしたか? 可愛らしい。しかし女で二人の稚児を連れてな旅路はいささか大変だろうに……」

 男は少々考え提案してきた。

「実はこちらも恩人に会いに行くと言ったのは耶三淵。どうだろう? 道案内がてら一緒に同行せぬか? 手前は幸吉と申す。そなた名は?」

 清の思惑がうまくいく。

「はい、清と申します……耶三淵のお雪という女性を尋ねに……」

「お雪? もしや耶三淵の離れにおるお雪婆?」

 幸吉は目を見開いた。

「えっ? そ、そうですが……藁葺き屋根のいつも童らに囲まれておったお雪婆さまです……」

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