88話
「清さま……あそこに団子屋がある! ちょっと休みましょうよ」
京に登り、根音がはしゃいで団子屋を見つけ清の裾を掴んで引っ張った。
「もう、しょがないねぇ……」
清が根音の頭を撫でると、傍らで根子が呆れ顔をしている。
「ほんとガキ! もうちょっとは京の風景を楽しめないの? 意地汚い!」
「うるさい……跳ねっ返り! 根子だって、涎垂れてるぞっ」
「涎なんか垂らすもんですか……!!」
根音が指摘すると根子は言い返したが、無意識に口元を袖で拭いた。
「また二人は! 兄妹仲良くおし! でも……ずっと高杜から気を張ってきたんだ。ここらで一息いれようか? ほら……根子もお腹空いたろ?」
清が頭を撫でると根子は顔を真っ赤にした。
「別に団子なんか……」
根子のお腹がぐぅぅと鳴る。
「ほら……やっぱり……根子はもっと素直にならないとね」
清は微笑んだ。根音はにんまりとした。
「根音はもっと謙虚におなり……!」
清が優しく一喝すると、根音は頬を膨らませた。清は根音、根子と手を繋ぐと団子屋の軒下に施された縁台に腰掛け団子と茶を頼んだ。
団子が目の前に来ると根音よりも根子の方が目を輝かせた。いつも背伸びをして大人っぽく振る舞う根子が、まるで猫のように目を丸くしてそわそわしている。
「ほら、ゆっくり頂くんだよ……」
根音と根子は美味しそうに頬張った。根音は口一杯に団子を咥え、根子は一口ずつ噛み締めるように食べた。口の中に広がる甘味が疲れや緊張を癒していく。
「清さま……食べないのか?」
根音が団子に口をつけない清に聞いた。
「お腹が減ってないんだよ……食べるかい?」
ごくりと根音は唾を飲んだ。
「うん……」
待ってましたと言わんばかりに頷く根音。
「でも、ちゃんと半分こだよ」
清は自分の分を丁寧に二等分にして根音と根子に分け与えた。
「でも……清さま……」
「いいんだよ。お腹が空いてないのは本当さ……根音、根子……いつもありがとね」
──本当にどうしたんだろう? あの日以来、空腹を感じることがない……逆に受け付けない。でもそんな姿を見せたら根音と根子が心配するだろうし……──
その時、目の前に人影が立った。清の中の心がぴくりと反応する。
「美味しそうに食べてござるな……愛らしい……」
話しかけてきたのは身なりを整えた男だった。その瞬間根音と根子の表情が変わり、根子が耳打ちをする。
「清さま……どうやらこの方のようです」
「どうやらそのようですね……今はまだ薄っすらですけど……痣が浮き始めています」




