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花仕舞師  作者: RISING SUN
第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
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82/252

82話

「……たまらんな、また無茶をしよる……花化従よ。舞いの準備を……」

 顔を歪めながら事の成り行きを遠くから眺める静。

「し、静さま……その身体で、舞われるでありんすか?」

 花化従が手を貸そうとすると拒絶するようにはね除ける静。

「今やるべきことかぁ……! このたわけ者!!」

「あっ! これは、わちとしたことが……どうか赦してあそばして。今から屋敷に向かわれるでありんすか?」

「ここからで良い。ここからでも我が仇花霊々(あだばなたまがら)の舞いは届く……我れの舞いを見くびるな!……「(うらみ)」は、信じた相手に裏切られた時の心の腐敗。「(たより)」が崩れたときにもっとも深く根を下ろす感情」

 静は花断(はなたち)の面をそっとつけ、線香花火を掲げた。

「いざ、仇花霊々(あだばなたまがら)の舞にて候。花傀儡(はなくぐつ)筆頭、花化従、此れに──」

 花化従も花断の面をかぶり、唐傘、花傘(はなかさ)を広げ、掲げられた静の線香花火に息を吹き掛けた。ふわっと灯火があがる。そして、その線香花火を預かる番人、|仇花灯の籠の番人花左手あだばなともしのかごめのばんにんゆんでに花火を預けた。

 花化従が舞う。重い道中下駄を履いたまま、いとも容易く、見る者を惑わすように軽やかに、華やかに。そして漆黒の蕾を五つ実らせる。静がそれを見届けると舞いの始まりを知らせる花現身(はなうつしみ)を唱えた。


 ──死せるも、恨みを忘れず。流れぬ涙は、あまねく人を呪う──


 そして、時を同じく、横たわり浅い呼吸をする秋歌の目の前で、清も矢を身体に刺したまま、花告(はなつげ)を唱える。


 ──たよりの灯が、夜を越え、最後の鼓動を導いた──


 鉄は幻想的な舞いを見せつけられ、魅入られ言葉が途切れ途切れに出てくる。

「これが、秋架さまに必要な舞い? なんて美しく、なんて……幻想的なんだ」

 ただただ、その光景にそれ以上の言葉は見当たらない鉄。


 そして、二人が秋架のために、舞いを披露するなか、山の尾根を駆け降りてくる、一陣の騎馬。

 先頭に立つのは、見覚えのある甲冑の男。深紅の裾が風を裂き、槍先には金糸で縫われた鷹司家の家紋がはためく。西嶺軍に囲まれた村民たちを小高い丘から見下ろし、高らかに声をあげた。馬上で槍を掲げ、凛とした眼差しを宿すその男。かつて真名を名乗らなかった若武者が、今、堂々とその存在を刻みつけるように、風を割って進んでくる。


「我が名は、篠原蒼真(しのはらそうま)。先の主君、鷹司文綱(たかつかさふみつな)より、高杜の『信』を護るよう託された最後の将なり──」


 高杜の民は声のする方を見上げた。そこには、村を護るためと追い出した男が高杜を護るためにと戻ってきたことに、畏れを抱き、希望の光のごとく見た。

「……あれは……蒼真殿じゃないか……?」

「儂らはただ、厄を運んできた男と罵ったのに……なんと……」

 その姿に、村人たちはひれ伏した。

 恥を忍び、信を貫き、戻ってきた者──それが蒼真だった。

 

「あぁ……蒼真殿の声が聞こえる──」

 秋架は息がこと切れそうになりながらも、信じ続けた男の声を聞き取り、笑みを浮かべていた。

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