80話
「茶番はもう終わりか? 別にかまわんのだが? 『信』だの、『裏切り』だの……この村はもう終わり……今からこの西嶺軍の旗を靡かせる地となるのだ……」
笹道は皮肉を込めて二人の会話を醜い笑いで締めようとした。
「何を……おっしゃりますか? この地は決して屈することはございません! この地に『信』がある限り、西嶺の軍の旗が靡くことは断じてありません」
秋架は笹道の顔を睨み、立ちはだかった。それはその血がさせるのか、まるで人の上に立つ将の如く。
「やめるのだ……秋架殿……無闇に煽るものではない」
常影が秋架を止めようとする。が……
「面倒だ……矢を放て……逆らった者がどうなるか……見せしめだ!」
笹道は手に持つ采配を振った。
「おやめくだされ──!」
常影は懇願したその時……
ビュッー──
乾いた風を貫くように矢が放たれる。
すべての時が止まる。村民の目が一点に集まる。それは無情の貫き。
「えっ……」
秋架の胸に一本の矢が深く突き刺さり、矢の鉄の先が生々しく赤く染まり、秋架の背から顔を覗かせていた。そしてゆっくりと赤い雫がぽたりぽたりと、ゆっくりと止まることなく垂れていた。
秋架は膝を付いた。痛みが襲う。身体中が熱くなる。
「常影……これで理解できたか? その女のように村人を殺すか? 構えるか?」
非常な仕打ちに常影をはじめ、誰一人逆らう気にはなれない。秋架の胸に突き刺さった、立った一本の矢は、なんら武力を持たぬ高杜の人々を失意のどん底に落とすには十分だった。
──私はなぜ、立ち上がったのだろう? あぁ……これが清殿の言った花紋様の痣の力か……しかし、そんなこともう、どうでもいい……例え叶わずともこの地であの方を、蒼真殿を信じて待ちたかった──
「誰か……秋架殿を屋敷内に運んでください……」
かまわず清が叫ぶ。
──このままでは秋架殿は未練と後悔を残したまま旅立ってしまう──
いつ矢が飛んでくるか分からぬ状態にも関わらず、清は飛び出してきた。案の定、清狙いを定める兵。
「清さま……危ないですって……」
根音が清を止めようと必死に追いかける。
「かまわぬ……! 今さら矢の一本や二本……この身体に突き刺さろうといかがするか!」
花仕舞師としての本分を果たす強い意志があった。そして清は、矢が飛び交い、いくつもの矢が自らの身体を貫くかもしれぬ状況を想像していた。それは恐怖より、自らが知らず知らず、『死を向かえる』という高揚感が沸き上がり、笑みを浮かべていた。死を求める壊れた心と花仕舞師たる確固たる心──二つの想いが、清の中で渦を巻いていた。




