79話
秋架が屋敷に辿り着くとそこには大勢の西嶺軍に取り囲まれた常影と村人の姿だった。
「なぜこのようなことをなさる? この村はいずれの旗にも靡かぬ村……代々それを守り通してきた……しかも、それは西嶺も東洲も暗黙の了だったはず。なぜ今更ながらこのような仕打ちをなさる?」
西嶺の軍を預かる将、笹道は笑いながら答えた。
「当初はこの地の奥にあるとされる東洲側の隠れ貯蔵庫を隠密に調べるために、この辺り一帯周辺に詳しい村の者からの情報だけで良かったんだが……」
「情報? 内通者か?」
村人が騒ぎ出す。
「しかし、この村は土地の状態も良く貧しさを装っているが、この村の貯蔵庫にはそれなりの蓄えもあるようだ。偶然、兵がそれを見つけてな」
「なっ……もしかしてあの貯蔵庫の件は西嶺の仕業?」
村人たちは怒りが増してくる。かまわず話を続ける笹道。
「そして特にこの村の古道はこの辺り一帯を掌握するためには最も重要。そしてこの村に我が軍の拠点を置き、東洲制圧の柱に。我が君主はこの村が欲しくてたまらんらしい。我が君主のご命令だ……なぁ、常影よ……また協力いたせ! 黙ってこの村を引き渡せば何も村人の命まではとらぬぞっ」
卑下た笑いを浮かべる笹道。
「な、なんてことを……それでは約束が違う! この村に手を出さないという約束で西嶺に協力したのにそれでは……」
常影は唇を噛み、拳を握り締めた。
「そ、それでは裏切ったのは村長自ら? 内通者は村長!?」
村民は混乱した。『信』をこの村の守り神のように思っていたものが崩れていく瞬間だった。
「村長……それは誠にございますか? 西嶺に協力とは……! そしてその罪を蒼真殿にかぶせたのですか!?」
秋架は二人の会話に割って入り声を荒げた。
「仕方なかろう! この村にあるのは『信』という真に頼りにはならんもの。この村には本当の意味での護る兵はおらんのだ! この村にないものならば……護るために縋ることさえ必要なのだ!」
常影は悔しさを滲ませた。
「それでも……人に罪をかぶせるのは違うのではないでしょうか……」
凛とした表情で問う秋架。言葉を喪う常影。振り絞る声には力がない。
「結局……儂は民を裏切り、それがこの村のためと信じた。そして、罪なき蒼真殿を贄にし、儂、自身の心を裏切った。すべて『信』に盲目した結果……儂は……『信』からも裏切られた」
この村が守り神ように崇めた『信』はその裏切りにより高杜の村を見放した。常影の言葉はそれを代弁しているようだった。




