77話
「狭いところですが……」
清たちは招かれ、秋架の住まう庵を訪れた。藁葺きの屋根も色褪せ、戸板は年月に蝕まれ、馴染まないほどに傾いており、開け閉めの際、軋む音がする。壁板も所々剥がれ、外の光が内に漏れ、すきま風が吹いてくる。住まいは質素で、秋架の立ち振舞いや内なる高貴なものを思うとあまりにも差があり過ぎると清は思った。
「あばら家と思われるでしょうに……ご無礼、平にお許しくだされ。心苦しゅうにございます」
秋架は申し訳なさそうに頭を下げた。
「お気になさらず……こちらが不意に伺った身。頭をあげてくだされ」
清は横に首を振った。
「さて、いかようなご用で? 先ほど鉄さんに徳を探して旅をしていると話されていましたが。それに何故、私の名前をご存知で?」
秋架は疑問をありのままぶつけた。
「可笑しな話かと思われるかも知れませんが、私はこの者共とあるものを求めて旅をしている宿清と申します」
清は先ほど根子に咎められたことを覚え、慎重に話を始めた。
「あるものとは……?」
また不可思議な赴きを持つ清の言葉に興を覚え、言葉を待った。
「はい……それは人の心が持つべき徳。そしてこの高杜の地に徳の一つ『信』を感じ、お伺いした限りです」
清は秋架の振る舞いに引かれるように背筋を伸ばし答えた。
「それで、その徳とやらは見つけられそうですか? 確かにこの村は人を信用することで成り立っているような村です。ですがそんな大事なものはないのではないでしょうか……?」
「それは……偶然か運命か、導かれるようにここにお伺いしました。どうやら秋架殿……あなたさまのようです」
「私……ですか?」
秋架は驚いた後、微笑んだ。
「何をおっしゃいますか? 私にはそれほどの徳はございません。何かのお間違いでは?」
清は静かに息を吐き、静かに目を瞑った。そして目を開き、その真実を伝えた。
「私は花仕舞師。直、逝く運命の痣である『花紋様』の痣が浮き出た者を手前の舞いにより、その方の恐れや未練を祓い、生きた証であるその磨かれた徳を輝かせ、その方の人生に幕を下ろす存在です」
清は心苦しかった。つまりこれは死の宣告となんら変わりがないからだ。
「花仕舞師? 花紋様の痣? 人生に幕を下ろす?」
さすがの秋架も表情がみるみる変わる。しかし、清は使命を果たすために言葉をはっきりと続けた。
「はい……そしてその花紋様の痣が秋架殿、左手の甲にはっきりと浮き出ております。秋架殿の尽きる日が迫っております……」




