76話
「ここが高杜の村……」
清たち一行は蒼真と出会ってから数日後、高杜の地を踏みしめた。
辺境の地にある村は確かに裕福そうには見えない。なぜならば見たところ、村に豪奢なものは何一つない。屋根は苔むし、土壁はところどころ剥げ、木戸も軋んで音を立てている。あれはこの村を治める長の屋敷だろうか。回りに比べれば一回り大きな屋敷。柱に刻まれた家紋が辛うじて格式を語るが、それさえも、この村の息吹きに溶け込んでいる。
この地には富も威も感じない。だが、確かにあるのは、人と人との間に宿る静かな絆。誰もが「ここに在ること」を不思議と信じており、だからこそ争いも、疑いも、ここには根を下ろさない。高杜の村は、豊かさでは測れぬものを守り続けている。世は激流のごとくに乱れども、この地のみは深き淵に澱を湛えしごとく、微動だにせぬ村。逆にそれが余所者を近づけ難くしているようだ。
「清さま……ここ、なんだか変……風がおかしい」
根子が清にしがみつく。
「俺らも……風が乱れてる。嵐が来る……」
根音も同意する。
「そうね……嵐の前の静けさというか……急ごう……」
清はそう伝えると小高い丘にそびえる屋敷に向かおうとする。
「待て……誰だ貴様? また余所者か? また厄いを運んで来たか!?」
あからさまに敵意の目を向け、村人の一人が叫んだ。
「厄い? 違うわい! 俺らは心を預かりに来たんだい!」
根音が言い返す。清は根音を嗜める。
「こら! 根音……事を大きくするんじゃない!」
「心だ? 何わけのわからんことを……」
「手前どもは徳を探して旅の途中……そしてこの村に『信』の心を……」
根子が清の袖を引っ張る。
「清さま……それじゃあ、根音と同じこと言ってる! 余計怪しまれるって……」
「徳を探してだぁ? 『信』の心? 何、わけのわからんこと言ってる!? きっとこいつらもあの男と一緒でこの村に何かよからんものを持ち込もうとしてるんだ! 出てけぇ!」
村人はわけのわからないことを語り出す清たちにいきり立つ。
「待ってください!」
まるで気高い風が吹くような凛とした声が響いた。
「鉄さん……誰もかれも絡んだらだめだよ……ちゃんと話を聞かないと……」
「ふん……相変わらず……秋架さまは……お前たち早く出てけよ。それに……一番の厄いは秋架さまじゃろう!」
鉄と呼ばれた男は最後の言葉を小声で捨て台詞を吐き、機嫌を損ねたまま、砂をかけるよう立ち去った。秋架はくるりと振り返り、清たちに笑顔を見せた。
「お見苦しいところを……申し訳ないです」
「あなたさまが……秋架殿?」
「はい……いかにも私は秋架と申しますが……私に何か?」
驚きの表情を見せた秋架。そして……根子が清の袖を引っ張る。
「清さま……あの方の左の手の甲に……」
「そのようですね……」
偶然と言うにはあまりにも残酷な風が吹く。秋架の左手の甲に花紋様の痣がくっきりと浮かんでいた。




