75話
「ここは……荒れている。それに匂いも……」
かなり踏み荒らされた跡が目立つ。それに火薬や血の匂い。紛れもなく兵どもが通った跡。
「清さま……お気をつけてください。ただいま戦中と聞いております。確か、西嶺ノ国と東洲ノ国の戦が……目指すはその間にある高杜の村」
根子が声をかけた。
「そうか……そこに新たな徳がある。根子、根音いつも申し訳ない。私がふがいないばかりに迷惑をかけて……」
「何をおっしゃいますか? 清さまはこれから花仕舞師、最高位|花徳護神の天上花仕舞師《はなめぐみまもりがみのてんじょうはなしまいし》になられるお方。これしきなんともないですよ」
根音が笑顔で答えた。
「花徳護神の天上花仕舞師……? そ、そうだな、それが私の目的。しかし、なぜ私には記憶がないのだろう? いつか思い出せるのだろうか? それに最高位……確かに姉さまは一族、最高の仕舞師……だったと聞いている。……確かにそうなのだ……で、でも……」
険しい尾根道を歩きながら清は何かに引っ掛かりながら自問自答していた。
「お静かに……清さま、誰かいる……」
根音が小声で声をかけた。
「こんな辺鄙な場所で何をしてる? それも女、子供で……ここは危ない場所ぞ」
笠をかぶった男が足を止め清たちに声をかけた。清は庇うように根音と根子の前に立ちはだかった。
「危険は承知! しかし、手前どもはこの先にある高杜の村に用があります。そこに大切なものを預かりにいかなければなりません」
「大切なもの? 高杜の村にか……?」
男は命をかけるほどのものがあったかと不思議そうな顔をした。
「人の心だよ」
根音が清の背後から声をかけた。
「人の心とな?」
「そうです。『信』の心を預かりに……ですからどうしても行かないといけないのです……それに……」
「それに……?」
「時間がないようなのです」
「しかし……今は戦中。そして高杜の村は、その戦に巻き込まれる。だからこそ私も急がなければならないのだが……」
男も焦りの顔が見える。
「ならば私たちも急がないとなりません」
「待て……! お主らの顔を見るといかに重要かはわかる。ならば一つ頼まれごとを聞いてはくれないか?」
「頼まれごと……ですか?」
「そうだ! 高杜の村に秋架という女がいる。戦に巻き込まれても待っていてくれと伝えてくれ。信じて欲しいと……」
切実な声の響きに清は深く頷いた。
「承知しました。私は花仕舞師の宿清と申します。ここに控えるのは従事者、根音と根子。失礼ながら、おたくさまのお名前は?」
「朝比奈……いや、蒼真、篠原蒼真と申す。必ず伝えてくれ!」




