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花仕舞師  作者: RISING SUN
第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍
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67話

 ──三つ目の蕾が、音もなく静かに開いた。……ふと、風が止んだ。白砂の奥底、あるいは地のさらに深くから、微かに震えるような気配を清は感じた。

 花護人は双子のような幼子、花根孖(はなねし)の舞。根音と根子、二つの存在がまるで地中深くから響いてくるように現れる。根音は地に根ざし、揺るぎなく。根子はその傍らに寄り添いながら、まるで誰かの記憶をそっと呼び起こすように、優しく舞う。

 一方、花傀儡は背を向け、あえて舞の型を崩す。名は反花(そりばな)。花に背を向け、咲かぬことを選ぶように。だがその動きには抗いがたい力があった。壊すことでしか、伝えられぬ心があるのだと訴えるかのように──。

「こんな幼子までもが、舞うのか……」

 現路は呟いた。懐かしむように、合口を静かに見下ろす。その瞳の奥に、遠い過去の面影が揺れていた。

「ああ……あの頃を、思い出す。まだ、ただ素直に想いを伝えられた日々。匠盛殿……」

 名を口にした瞬間、心の奥底に閉じ込めていた記憶の扉が、そっと軋みをあげて開いた。過ぎ去った時間。交わされた約束。言葉にならなかった想い──。

「……懐かしいですな」

 その言葉に応えるように、根子が現路の方を向き、そっと語りかける。

「しっかと、見届けまする……現路殿」

 その声は、まるで幼き日のあの人のようで。現路の胸に、ひと筋の痛みと温もりが走った。根子の響きが大地に沁み渡るたび、現路の胸に沈んだ記憶が土を割って芽吹くようだった。

 すると、その時──ふいに、番人右手が持つ線香花火が揺らいだ。誰も見ぬ何かを見据えるような気配が宿った。

「……あの方が来る、私の心と現路殿の心に呼応する……」

 清が、そっと呟いた。あの瞳を、かつて見たことがある。決して揺るがぬ死を背負う覚悟の色だった──。

「現路殿……」

 現路の背後から、静かに別の声が響いた。それは、厳かな響きを持っていた。声が響いた瞬間、空気がわずかに揺らぎ、それはまるで、死者の吐息が現世に触れたかのようだった。

「誰でござるか?」

 慣れた介錯人とて人として揺らぎが生じるもの。それは武士として厳粛の場を任せられた者ならば仕方なし。しかし、その言葉には揺るぎなき強さがあった。

「今、この介錯人の身体を借り、我が介錯を賜ります。我が名は、花仕舞師に仕舞われた者、灰塊(はいかい)。清殿に『(ただしさ)』を預けた身……」

 灰塊。幾人腹を召す者の一命を賜ってきた灰塊。『忠』の心に導かれるように、その魂はこの場に降りてきたのだった。

「安心して……任せられよ」

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