67話
──三つ目の蕾が、音もなく静かに開いた。……ふと、風が止んだ。白砂の奥底、あるいは地のさらに深くから、微かに震えるような気配を清は感じた。
花護人は双子のような幼子、花根孖の舞。根音と根子、二つの存在がまるで地中深くから響いてくるように現れる。根音は地に根ざし、揺るぎなく。根子はその傍らに寄り添いながら、まるで誰かの記憶をそっと呼び起こすように、優しく舞う。
一方、花傀儡は背を向け、あえて舞の型を崩す。名は反花。花に背を向け、咲かぬことを選ぶように。だがその動きには抗いがたい力があった。壊すことでしか、伝えられぬ心があるのだと訴えるかのように──。
「こんな幼子までもが、舞うのか……」
現路は呟いた。懐かしむように、合口を静かに見下ろす。その瞳の奥に、遠い過去の面影が揺れていた。
「ああ……あの頃を、思い出す。まだ、ただ素直に想いを伝えられた日々。匠盛殿……」
名を口にした瞬間、心の奥底に閉じ込めていた記憶の扉が、そっと軋みをあげて開いた。過ぎ去った時間。交わされた約束。言葉にならなかった想い──。
「……懐かしいですな」
その言葉に応えるように、根子が現路の方を向き、そっと語りかける。
「しっかと、見届けまする……現路殿」
その声は、まるで幼き日のあの人のようで。現路の胸に、ひと筋の痛みと温もりが走った。根子の響きが大地に沁み渡るたび、現路の胸に沈んだ記憶が土を割って芽吹くようだった。
すると、その時──ふいに、番人右手が持つ線香花火が揺らいだ。誰も見ぬ何かを見据えるような気配が宿った。
「……あの方が来る、私の心と現路殿の心に呼応する……」
清が、そっと呟いた。あの瞳を、かつて見たことがある。決して揺るがぬ死を背負う覚悟の色だった──。
「現路殿……」
現路の背後から、静かに別の声が響いた。それは、厳かな響きを持っていた。声が響いた瞬間、空気がわずかに揺らぎ、それはまるで、死者の吐息が現世に触れたかのようだった。
「誰でござるか?」
慣れた介錯人とて人として揺らぎが生じるもの。それは武士として厳粛の場を任せられた者ならば仕方なし。しかし、その言葉には揺るぎなき強さがあった。
「今、この介錯人の身体を借り、我が介錯を賜ります。我が名は、花仕舞師に仕舞われた者、灰塊。清殿に『義』を預けた身……」
灰塊。幾人腹を召す者の一命を賜ってきた灰塊。『忠』の心に導かれるように、その魂はこの場に降りてきたのだった。
「安心して……任せられよ」




