66話
「これが静殿が申しておった舞の始まり……? ならば見届けようぞ……その舞とやらを……そして花天照殿、そなたの『忠』を見せてもらおうぞ」
それでも死に座のまま現路は形を崩さず。左手の甲の花紋様が終演の幕を開始するかの如く光だす。
清と静がそれぞれ線香花火を取り出す。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに」
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに」
互いの筆頭である花天照が天に舞い、花化従が下駄を鳴らす。互いの主の線香花火に息を吹き掛け火を灯す。ふわりと灯った線香花火を清と静が番人である花灯の籠の番人右手、仇花灯の籠の番人左手に線香花火を預ける。清は番人に告げる。
「よいか右手よ。現路殿の覚悟に一切の瑕を残すな……即ちこの火を最期まで護り抜け!」
右手は何も言わぬが左手で灯火を護るように添えた。
「出来損ないの妹よ……未だ喘ぐか? 左手……何も語らずともわかるな」
静の言葉に左手は首を縦に振り、右手を傘のように添え灯火を護る。ぽつりぽつりと雨が降りだす。雨の雫が弾けるように舞う。花化従が花絶の面をつけた。花天照は頭上に舞い翼を広げる。互いの舞いが迷いのすべてを昇華させられていく現路。
厳かな舞いが繰り広げられる中、花天照と花化従の身体から枝が分かれ、白砂に突き刺さる。そして地中からは、それぞれ五つずつ、真白と漆黒の蕾が現れた。荘厳に並ぶ拾の蕾がその時を待つ。
──この舞がすべてを照らすならば、あの方も、きっと……見ていてくださるでしょう。義を預かりしあの魂。今もなお、我らの後ろ盾として、この場に在らんことを──
清が心で呟く。そして……
──まごころは道標、たとえ闇に堕ちようとも、誓いは散らぬ──
清が花告の言葉を告げると、静は花現身の言葉を詠む。
──妄を以て、願いを縛りし。我はそれを知りながら、ただひたすらに縋りし──
お互いの花告、花現身を唱え終わるとそれぞれの一つ目の蕾が開く。鏡面のような世界が広がると、方や雨粒がさらに勢いを増し一面に湖面を描く。水鏡のような衣を纏う花護人、花水鏡と雫のような真青の衣を纏う花傀儡の花雫。花水鏡の舞いが現路の内面を映し出せば、花雫の舞が現路の感情をあぶり出し感情を解放する。
「これが花雫殿の舞……まるで私の意に介さぬほど心を抉ってくる。そうか……それほどまでに静殿を慕うか……」
現路は息を呑む。──互いの次の蕾が開き始める。
花護人は花翅、花傀儡は花徒影。花翅は蝶のような翅を羽ばたかせ、花徒影は光の反射で煌びやかに光る衣。花翅が舞うごとに風がそよぎ、花徒影は現路の影をなぞるように舞う。幻想的な舞が心を洗い浄めていく。




