63話
「そなたにわかるか? 忠義を尽くそうとした主君の目の前の死。追うことも許されぬ。そしてまだ生きている。ただ我が主君の願いは『生き残れ』なのだ。しかし、それでも私は生きる意味を見いだせず死を選ぼうとしている。それは心の謀反だったのだ」
現路は唇を噛んだ。
「私は『忠』と信じたかった。信じようとした。しかし、それを『妄』と諭したのは、そなたの姉、静殿だった」
清の表情が険しく変わる。目が瞬時に憎しみに包まれ、つり上げた。清はその存在を認めたくはなかった。認めれば憎しみが増す。しかし、今の現路に対し、否定的な言葉は思い浮かばなかった。
「手前は……手前は……」
唇が震える。言葉を返せなかったことに対してではない。静に嘲笑われているかのようで呼吸さえままならなかった。現路はその清の姿を憐れに思い優しく寄り添った。
「清殿……よい。そなた、誰かにつかえたことはあるか? 誰かに仕えることなくしてこの苦しみはわからぬ。わかってもらっては困る……そなたを見ればわかる。そなた、仕える立場に非ず。上に立つ立場なのだろう?」
現路の言葉にはっとする清。
──私は誰かのために仕えたことがない。現路殿の言うとおり……仕えたことのない者が語るなどなんという奢りなのだ……──
「清さま……ここは私が現路殿のお相手をいたしましょう。主に仕える身として、立場を知る者として」
一片の羽が落ちてくる。それはひらりひらりと舞うように。そして畳に落ちると風が渦巻く。翼にくるまれた人影が現れるとゆっくりと翼が広がる。胸の前で祈るように両手を組み、そして神々しく目映く姿。
「花天照……」
清は言葉を出した。花天照はゆっくり、目を見開き現路に微笑んだ。
「現路殿……私は清さまに仕える花護人筆頭花天照と申します。我が主、清さまに我々の存在を預けた身。ならばその仕える身として、清さまに代わり談を講じましょう……」
幻想的な光景に言葉を失いかける現路。
「ほんにこの世界は未知なことばかり……もう、驚かぬ」
花天照は現路を羽で包んだ。
「二人だけで話がしとうございます……お気づきでありましょうが、清さまは姉、静さまの名前を聞くだけでも憎悪に心が染まります」
「確かに……静殿の名前を聞いた瞬間、目の色が変わった。あれは鬼の目のようだった」
花天照は清と静、二人の出来事を話した。無情にも両親が清の目の前で静によって惨殺されたこと。憧れであった静の暴挙、そして『花切の契』を自らの手で行い、永遠の縁切りを行ったことなど……。その後、花仕舞師として対立を深めることになる。いくら追いかけても、まるで嘲笑うように先を行く静──その姿への憤りが、清の心を支配していった。
すべてが静に対し憎悪のみで動いていることを現路に聞かせた。




