55話
清らは根音、根子に導かれ新たな想いに馳せながら旅路を歩んでいた。道は平坦ではあるが道のりは遠い。
その遠道のりと同じように清の心は晴れぬまま。それは孤風庵での出来事でさらに迷わされていた。確かに舞い、孤風の浄化を見届けた。それも花文は届き、しっかと『智』の心を受け取った。それまでの旅路、お雪の『仁』、灰塊の『義』、零闇の『礼』そして孤風の『智』紛れもなく清の心に芽吹き灯っている。が、それだけだった。花仕舞師としての本文を果たせた気分にはならなかった。
──本当にこれで姉さまに届くのだろうか? 復讐を果たせるのだろうか?──
想えば想うほど心は曇り、足取りは重くなる。
──なぜ、私は過去を思い出せないのだろうか? なぜ姉様は父母を手にかけた?──
──姉さまは誰を仕舞わず禁忌を犯した?──
清は考えれば考えるほど深い底に沈み憎悪を募らせる。
「清さま……手を繋いでよろしいですか……?」
根子がおそるおそる尋ねる。
「根子……どうしたの? そんなことかまわないよ……」
根子が清の手をぎゅっと握る。慌てる根音。
「ずるいぞっ、根子……またおべっか使ってさぁ……清さま……俺も……」
根音はかまわず清の逆の手をぎゅっと握る。
「なにさ……ガキ……恥ずかしい」
「黙れ! 跳ねっ返り……」
二人の口喧嘩がいつものように始まる。
「こら……ちゃんと二人の手、握ってるから大丈夫、喧嘩はおよし……」
いつもの調子に清はやれやれと思う。
「清さまの手……落ち着くんです……清さまの怒り収まるといいんだけど……」
「清さま……俺らたちがいるんで……」
二人は清を姉のように慕っていた。
「二人ともありがとね……私が私でいられるのはおまえたちのおかげ……二人だけじゃない、花天照、花水鏡、花翅、花霧、花誓、右手、花護人が助けてくれるからだよ」
清は微笑んだ。いつかは静と決着をつけねばならぬが今は忘れたいと思っていた。二人は清の微笑みと言葉に温かさを感じている。しかし……清の手は氷のように冷たい。清の肌からは温もりは感じずにいた。逆に吸い取られていく。氷ついた手を握っているようだ。
──温かさを分けてあげることができればいいのに……──
根音と根子は常に思っている。清の心は静に対し、憎悪の炎を燃やしているが身体は冷えきっている。戻ることもなく、この心が癒えることはけっしてない。『花切の契』が破り捨つられることない常しえの契りなのだから。
二人は知っている。仲が良かった頃のことを──だからこそ辛い旅を共にしていた。秘めたる想いを抱えながら、この旅が終わるとき真実は残酷な世界が待っていることを知りながら……。




