54話
目を覚ますとそこは覚えのない場所。
「ここは……?」
虚ろ虚ろと記憶を探ろうとするが何かが欠けているような気がした。
「そうだ……確か、部屋にいて荘厳な舞に惹かれていた、それも闇と光のような舞を……あれは……」
なぜかそれ以前の記憶が思い出せない。
「お目覚めですか? 花識殿……」
「誰だ?」
水墨模様のうねりを思わせる衣を纏い、黒墨のような滴りを思い起こさせるような黒髪、なぜか滲む姿をしている。
「私は花傀儡、花墨。静さまの命によりこちらにお連れしました。いかにも消滅したようにみせかけるために……」
「そうだ……私は演技をしていた。あれは清殿の舞中……魅了させられながら、それでも、そうだ静殿の計らいを遂行しながら……」
徐々に記憶取り戻す。
「迫真の演技……感服いたしましたぞっ……」
花墨が膝を折り座し、頭を伏せる。花識の後ろから覚えのある声がする。
「静殿か……」
「しっかと我が望み通り動き、清に舞が完遂した様に見せてくれた。当の本人は戸惑ったようだが……しかしながら、清にとって、花識殿はこれで浄化され消滅された身。今後は姿を現さぬよう願い通り綴られよ。我らが舞師の姿を……『真の綴り』を……花墨、花識殿に墨と筆そして半紙を……見てきたものを綴りたいとうずうずしておったろう?」
「そ、そうだ……舞を眺め、書き綴りたいと願っておった」
花墨から墨と筆、半紙を受けとると書き漏らすまいと筆を一心不乱に走らせた。半紙はいようなほどの早さで文字が書きなぐられていく。その姿、まさに綴ることを宿命とした者。
「花墨……よう動いてくれた。花識殿の偽の花紋様しかり、黒墨でぼやかすように花識殿を消滅したように見せかけてくれて感謝する。これで清は惑いながらも舞を達成したと思っているはずだ……」
静は声を出さずに笑みを浮かべた。
「花化従こちに……」
「花化従こちらでありんす。いかに……」
花化従が姿を現す。
「しばらくは花識殿と行動を共にし、これまでの全てを花識殿に教え綴らせたまえ……」
「承知したでありんす……」
「我は先に次に向かう……『忠』に従いし、侍の元に……」
静が花化従に言い残す。
「道中あまり無理をなさらずに……花雫、静さまを頼むでありんす」
「承知……静さま、しばらくは花化従の代わりに私がお供します」
水滴を滴らせたような衣を纏った花雫が静に付き添う。
花傀儡、|花雫を従え、その者の元へと向かった。
「さぁ、清……妾の本懐また一歩近づいたぞ……そなたはまた妾の手のひらで踊れ……」




