50話
清は座したまま震えている。まるであの冷たい目で見られているような気がしたからだ。身の裡ぞぞけ立つ。
「失礼します」
声がする。障子に映る姿は花紋様と同じく、水墨模様だ。
「どうぞ……」
清は不安を隠すように言葉を絞った。障子がすっと開く。孤風と名乗った花識の笑みは冷たい。
「お疲れでしょう。何もお構いできませんがお茶と茶菓子を用意いたしましたのでこれを……」
清たちの前に差し出された茶と茶菓子。
「いただきまーす」
早速、根音が手を伸ばす。
「これ、根音。はしたない……」
清が嗜めるとすぐに根子が横やりを入れる。
「全くガキが……」
しかし、根子も茶菓子に目を奪われている。
「はははっ……まだまだ根音殿も根子殿も茶菓子に心奪われるようなお年頃。よいではありませんか……この茶菓子は南蛮由来でもの珍しきもの。たんと召し上がれ」
「あい、すみませぬ」
清は非礼を詫びながら根音と根子に頂くよう促した。根音は飛び付くように口に茶菓子を押し込み、根子は頬を赤らめながら一口、やんわりと噛り、頬を緩ませた。
「美味しいですか?」
花識は二人の食べ姿に微笑むと同時に頷き、舌鼓を打った。
──まずは心をほぐすこと。疑いも、警戒も……甘さの中に沈めてしまえばよい──
花識は微笑を崩さぬまま、彼は湯呑をそっと置いた。
「唐突で申し訳ございませぬが、ここに先程まで誰かいませんでしたか? 香の気がいたします。それに微かな火薬の匂いも入り交じり……」
清はぞぞけの違和感と花識の振る舞いに距離を置くように尋ねた。
──やはり、ごまかせぬか。さすがは静殿の妹君、無理な試しは無意味か……──
「はい、確かに先程まで療養されておる方がいらっしゃいました。名前は確か……『宿静』殿と名乗られておりました」
「やはり姉さまはここにいた……『宿静』は私の姉で御座います」
奥歯を強く噛む清。名を口にするだけで吐き気がする。血の匂いを交じらせて。
「そうですか……『宿』とお伺いし、もしやお身内ではと思っていたのですが……」
──あやつは私の気配をすぐに感じるはず。その際は私の存在をまずは明確にせよ──
静の施しの手はずに、花識は自然な形で清に伝えることができた。
──この場にいなくともこの空間を自在に操るか。妹君も私も静殿の手の上で踊らされるか……──
花識は静の恐ろしさを改めて思い知らされた。
「やはり姉さま……この火薬の匂いは線香花火。我々の使命果たす時、必ず漂う香。もしや孤風殿、姉さまは舞を……孤風殿のために舞われたのではありませんか?」
清は心に若干の引っ掛かりを感じたまま、孤風に問うた。




