48話
「何を言い出すかと思えば……」
静はそっと孤風に近づく。
「半死になられると言う意味をおわかりになられるか? 永遠の苦しみを纏う。姿見は人であるが、これ人に非ず。この舞止めるということは我、非道の行い。すなわちそれ、禁忌なり」
静は囁く。
「わかっております……しかしながらそなたの道を、そしてそなたが愚妹と申される妹君の道、花仕舞師の道を見届け、真を記したいと存じます。この『半死奇談』改め『花死奇談真の綴花死奇談真の綴』として」
孤風は真摯に座し、頭を下げ懇願した。静は深く息を吸う。それはさらなる決意の表れ。
「あい、わかりました……」
静は舞を止めた。焦りの冷や汗を流す花化従。
「静さま……! 禁忌でござんす……それは堪忍してたもれ。これ以上は……」
花化従が頭を下げるのを忘れ静に詰めよった。しかし揺るがない静。眉ひとつ動かさない。
「控えよ……花化従。元々禁忌を犯し、一族を追われた身。ましてや あの出来損ないの妹に『花切の契』さえ受けた身。今さら禁忌のひとつやふたつ、何も変わらぬ」
静は禁忌さえ我が身と言わんばかりに凛と構える。
「何をおっしゃるでありんすか……お気は確かか? ただでさえお身体に夥し負担の数々……その身を案じればこそ。痛みはすべて……また痛みが……静さまにのしかかります……それだけは堪忍してたもれ……今一度、お考えを改めては……」
「黙れ! 花化従……」
控えよと言われても、黙れと言われても……花化従はとまらなかった。無礼を承知で静の襟を掴み心に痛みをほとばしらせる。静の身体を考えれば真の愚昧。静の身を案ずれば案ずるほどにまるで自身の身を削られる思い……。
「よい……先生の思ひは我の本懐の欠片のひとつに成り得る。それならば痛みの代償、いかなるものも我が受けるのみ」
静の心は揺らがない、揺るげない。
「静さま……それはあんまりでありんす……堪忍してたもれ……堪忍してたもれ……」
花化従は襟を掴んだまま項垂れた。そしてそれは花傀儡、みな同じ思ひだった。
「花化従よ、そしてみなのもの……もう一度問う。我の本懐こそが我を突き動かす。その本懐のためならばこの身を獄に落とすこと、それもまた本懐の欠片。みなの者、道を誤るな……それがおぬしら主、我が道……それが仇花に堕ちてまで成すべき道理……それを理解せよ……」
花化従をはじめ花傀儡たちは押し黙り聞いている。静は孤風を見る。
「孤風殿……半死の決意、承った。そなたこれから『花識』と名乗り、この世界を見届けよ。それがそなたの役目」
孤風は頭を深く下げた。
「かしこまったでござる」
「ただし……他言は無用。さあ、清が参る。その前に施しが必要……花識こちらに……」
静は耳打ちをする。
「花識……これからが真実になる。いやがおうにもそれには逆らえないが……半死になればそれが運命」
静は高らかに宣言す。
──答えを欲し、答えに溺れた。見失った真理は、今なお胸を穿つ。惑いこそ、我が業なりとさとる──
「此にて仇花尽ず、舞途切れたことにより、半死永遠の獄、痛みなき身体と供に彷徨うなり」
静の言葉が各々の心に刻まれ、仕舞われることなく終演した。




