47話
次の蕾が開く時、そこは炎の湖に姿を変える。
「これは……? 私の未練が、欲が燃え上がる……最後の最後まで知れと燃え上がる」
姿を現した焔の衣を纏った花傀儡。孤風庵は炎に包まれる。舞う花傀儡が変わる度、そこは異世界を次々に見せてくる。
「我が名は花焔……朽柳の舞のでその欲に身を焦がせ……」
すべてを壊すように舞う。孤風の常識を壊しては舞い、壊しては舞う。
「そして、何も残らぬ生の世界にそなたは何を見る……?」
花焔がすべてを焦がし黒ずむ世界に最後の蕾が開く。黒墨のように滴り滲む姿。声も滲む。
「殿……花墨の黒菊の舞でござる……」
墨を纏う黒く染められた姿を見て笑う孤風。舞う度に墨に塗りつぶされる。何度も何度も塗り潰される中で、それでも消せない心が孤風の決心を揺らぎなきものの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
「あいわかった、私の願いに後悔なし……」
孤風は消え行く線香花火を力強く見つめると火花が激しくバチバチと音を立てる。
花化従が再び姿を現し、孤風を抱き締める。そして、目の前で面をはずす。吸い込まれそうな美しき花化従の表情。人外とわかっていてもそれを美しいと思う。そしてそれは孤風の願いを引き出してしまった。
「さぁ……お逝きなさい……未練に抗うことなく……」
花化従が孤風の顔にその面を被せようとする。その時……
孤風の手が花化従の手を掴む。
「ま、待ってくれ……」
「なっ……! 何をするでありんすか……?」
思いもよらぬ孤風の願いに花化従は驚く。
「し、静さま……」
花化従はどう対処すればよいかわからず振り向き背後にいる静を見た。
「いかがされましたか? 孤風殿……」
静は冷静に孤風に声をかけた。
「す、すまぬがこの舞を止めてくれぬか……私は『半死』として生きる道を選びたい……」
「なんと……! なぜに、なにゆえに……」
突然の申し出に静さえも言葉を詰まらせた。
「私は知りたくなった。もっと……この世界の理に抗う世界を……。舞を見せられる度に葛藤し続けた。このまま私の世界を終わらせようかと考えた。しかし、それ以上に焦がれるものがある。半死の苦しみに後悔するかしないか……違うこの世界を知らない後悔の方が私は恐ろしい……永遠の苦しみを受けてでも見届けたい」
孤風は狂気の笑みを浮かべる。
「何を申すでありんすか!? そちを半死にするということは静さまに禁忌を犯せと言うでありんすか? そちは阿呆ものでありんすか!!」
今まで冷静な姿で孤風の前で振る舞っていた花化従の態度が怒りで一変した。




