46話
「これが……導くための舞……」
孤風は身体の痛みが和らいでいくのがわかる。屋内だというのに唐笠を差し、花化粧が面を着けたまま、舞う。あの重い道中下駄をいとも簡単に履き慣らし舞う姿……物の怪と例える以外に言いようがない。そしてあの美しき立ち振舞い……男の性というものか……知識の高揚とはまた別の何かさえも欲情していく。ただそれを孤風はそれをまるで試させれていると思い押さえ込もうとする。しかし、惑わされる心。
「違う、断じてこれは思ひではない……これは色を募らせ試している」
「先生……その抗う姿……いとしゅうてかなわん……」
花化従は舞の最中、孤風の惑う姿に情欲を募らせる。
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
道中下駄を鳴らし終わると花化従の身体から弦が伸びる。
「あぁ……先生……その惑いを纏い、もっとわちきを情欲を搔き立たせてありんす」
弦が勢いよく床に突き刺さり、そして床を突き破り黒い蕾が天を指して伸び上がる。漆黒の蕾が五つ実を結ぶ。屋内に雫げぽとりぽとりと降りだす。孤風の迷いはすでに現し世も幽世も打壊した。雨が容赦なく孤風を撃ち抜いた。
「これは……」
漆黒の蕾が花開く。水滴のようにゆらぐ青い髪と青い瞳が舞出す。揺らぐような舞は孤風の未練や欲望をさらに煽る。
「こんなにも私の未練が……手に取るようにわかる……あの揺らぐ舞は……なぜこんなに私は生に執着しようとする……」
「我、花雫成り……緋蕾の舞にて己の未練をさらけ出して候──」
ゆらめき舞が孤風の未練を炙り出す。
「この未知の世界をもっと知りたい……願うならばすべてを智とし肉にしたい……」
そして二つ目の蕾が花開き、ぬるりと花徒影が孤風の影に忍び込んだ。
「絡牡丹の舞にて、その欲を身体に纏わせよ」
まるで全身を這われるような感覚。孤風の身体に纏わりつく花徒影。違う、それは錯覚に陥た孤風の心。全身に智を巡らせる。身体中で花仕舞師たちのすべてを知りたいという欲。その欲は身体から溢れだしている。
「知りたい……知りたい……知りたい……」
三つ目の花が開く。そこに現るは背を向けたままの花傀儡。
「なぜ、そなたは背を向ける? いや……なんだ? これは……天と地が反転してるのか? これは……」
空間さえ歪む。今までは掻き立てるような舞を目撃してきたが、今は静かだ。
「我は反花……逆松葉の舞がそなたの抗う罪を溶かす……」
背中を向けた姿の装束は花が逆さに咲いた姿を模している。まるでその舞は型を崩すように不安定だ。美しさとは違う。背徳感を漂わせ惑いの感情が心の奥から奥から溢れだす。




