44話
「まず、『花死』の詞、事の次第は異なります……真は『半死』、正しきは『半死奇談』なのです。いつしか奇談に語られる中で詞は変わっていきました。人は解することのできぬものを恐れ、それによって少しでもその真を歪めてきたのでしょう」
静は事の真相をたんたんと話語る。
「半死……? それは?」
孤風は前のめりで聞く。
「詞のごとく。命、片方は冥き淵に踏み入りし形。しかし、それは生と死に揺らぐ姿でございます。真、久遠の生、即ち死に対しての久遠の断絶です。命ある万物の理である死を永遠に迎えることができません」
今までの道理を覆され孤風は黙って聞いている。
「先生……先生はこの永遠の命をどう捉えまするか? 喜劇? 悲劇? 人は永遠に恋い焦がれると聞きます。半死になれれば未来永劫と喜ぶ人もおるでしょう。しかし、半死には様々な負が伴います」
「つまり半死……それは永遠に終わりのない地獄でございます」
静の口調はまるでそれを見てきたかのような厚みがあり、孤風の廻りには永遠という言葉を纏った暗闇が口を開けて待っているようだった。
「先生……先ほど開いた絵姿に何か感じましたか?」
「絵姿……あっ! 『死を招く使者』と題目され舞を舞う女の物の怪のことか……」
先ほど静に重ねた姿絵の項を慌てるように開いた。
「姿形は人のもの……」
孤風は絵姿を指先でなぞり静と見比べ呟いた。
「そして……人々の死を半死に変える存在が我々……『花仕舞師』でございます。我々が半死をこの世に生み出せる存在なのです。だからこそ、人は我々の舞を恐れこの『半死奇談』を書き起こしたでしょう。その舞う花仕舞師の絵姿も物の怪として描くことで現し世と幽世を曖昧にし、奇談として語ってきたのです。つまり『智』は『惑』を誘う。智を持つがゆえ無知に恐れを抱き、迷い、真実が見えなくなる」
「半死を生み出す? なぜだ……なぜ、そんな者たちが存在する? それこそ、人の皮を被った物の怪ではないか!?」
孤風は疑問を投げ掛けた。
「ごもっとでございます。だからこそ、それが『惑』なのでございます。我々の真の役目は死を迎える者の『恐れ』、『未練』を祓い、それらの痛みを越えさせ、現し世に生を受けたことに光をもたらせる。そして死を後悔なく終演させる。我らの舞はその架け橋となる存在なのです。それが花仕舞師です」
「では……なぜ、崇高な舞を舞う者たちが恐れられる……?」
「それは導く途中で舞を止めるという、花仕舞師にとって禁忌を行うことで、人の現し世と幽世に亀裂を生じさせ、人を半死の地獄に落とすことができるからです。『半死奇談』は半死にするという禁忌が恐怖により独り歩きしたようなものです」




