42話
「さて、それはどうでありんすかね」
花化従はふっと含みを持たせたように笑いはぐらかした。孤風はカビ臭い書庫の据えた匂いさえ、花化従の美しく笑む姿に我を忘れてしまいそうになる。
「いや、先ほどの口調……存じ上げてる口調でしたが……いったい『花死』とはいかがなる者たちなのか……教えてくだされ……」
孤風は惑わされそうになりながらも、食い下がる。
「そんな詳しくは……ただ、『智』を得ようとする時、摩訶不思議と思われることに疑いを持てば、これ即ち『惑』になるでありんす。先生はそれでも踏み込みたいと思うでありんすか……先生は永遠を望まれるか? それとも限りを望まれるか? わちきの知る『花死』とは苦しみを知らない永遠の苦しみを持つ者……これくらいでありんす。……まっこと、かたじけのうござんした」
花化従は、そのまま、すっと足音を立てず、まるで幽世の住人を思わせるように、孤風の元を離れていった。
「待ってくれ……」
孤風は追いかけようとする。花化従は振り返る。
「先生……、先生には花紋様が左手に浮かびあがっておるでありんす。もし、先生が智を深めたいと思うならこの、数日しっかとその花死奇談に目を通されよ。……その間、疑いなくした目を養うことができれば、究めること、叶うこともありんしょう……」
花化従はもう一度頭を垂れた。そう言い残すと凛とした姿でその場を去った。
「静さま……お加減は……どうでありんす?」
花化従は一言、静の気配を確認し、声をかけ障子をゆっくり開く。支度を終えている。しかし──
「えっ? 静さま……な、何を……」
花化従は驚きに声をあげた。舞の準備をしているのである。
「何をしてるでありんすか……静さま?」
「花化従……舞の準備を此に。もう直、清がここに来る。それまでに施しておかなければ……」
「施す……でありんすか? しかし……まだ今の静さまのお身体では……」
その瞬間、静が怒りの目を花化従に向けた。
「このうつけが!……誰に口を挟むか……なにゆえ、そなたは我に仕える? おぬし……我の本懐に水を差すつもりか!」
「堪忍しておくんなまし……さしでがましく、口を挟み……わちきを許しておくんなまし……静さま……」
花化従はおそれ、即座に頭を伏せた。
「よい、花化従……ぬしの想いは十二分に感じておる……ただ……道を誤るでない……我と共に歩むぬしの心……辛く苦しくとも我に預けてたもれ」
顔を伏せたままで震える花化従の肩にそっと手を置いた。
「さぁ……時はない。顔を上げよ、花化従。いざ……舞おうぞ……」




