41話
「さて……あの者の痛みはどこから……」
孤風は庵にある書庫から今ある書物を読み漁った。しかし、いずれも該当するものがない。
「全く検討もつかぬ……しかし……」
孤風は諦めに似たため息をついた。
「少し、別のものでも……」
孤風はある一冊の古い書物を手に取った。医術の勉学に励む傍ら、取り憑かれるようにその書物の理を極めんとした。
「なぜに人はこのようなことを書物に記したのか……? これはただの創り話なのか……」
しかし、孤風は記された文字に目を這わせれば這わせるほどいかんともし難い感覚に襲われ呼吸を乱した。
──花死奇談──
書庫の奥に埃にまみれたいにしえの奇談。現世ではとてもとても摩訶不思議な御伽話としか言いようがない。
「あるまじきかな……死にぞこなった者が徘徊するなど。それも永遠に死ぬことができぬなど……」
「先生……こちらにおりんすか?」
障子越しに声がした。
「その声は……静殿の側にいた……いかがされた?」
孤風は書物を閉じ振り返った。障子には影であるにもかかわらず艶やかな姿が映し出されていた。
障子がゆっくりと開く。そこには花化従がただ音もなく膝を折り、頭を垂れた。
「なっ、どうされた?」
孤風は慌てて花化従の側に畏まって座した。
「先生には大変感謝を申し上げるでありんす。おかげで静さまは快方に向かわれたでありんす」
頭を垂れたまま花化従は感謝の言葉を述べる。
「いや……快方とは? まだ……万全には、ほど遠いかとお見受けするが……」
花化従はむくりと頭を上げ広角をあげ、微笑む。
「おかまいなきことどす……当の静さまがおっしゃるのであれば……それはわちきらにとってそうなのでありんす。わちきらはここを去ろうと思います。すでにおしたくもうじき整いますえ」
孤風は、ただただ恐怖におののいた。静とはいったい、いかなる人物なのかと、花化従の笑みに触れた刹那、孤風は己の背を何かが撫でた気がした。
花化従はすっと立ち上がる。
「お代はいかほどでありんすか?」
花化従が孤風を現実に引き戻す。
「いやいや、私は何もほどこしもしていない……」
「それは違うでありんす。先生が療養する場を与えてくれたからでありんす。ほんに感謝するでありんす。お代は置いていくでありんす」
ふと、花化従は文机にある書物に目がいく。
「先生、面白い書物を読んでいらっしゃるでありんすね……『花死奇談』でありんすか?」
「そなたは……ご存知で……?」
孤風は学者として恐怖を上塗りし、新たな知識を得るきっかけに心を踊らせた。




