40話
「清さま……いくら痛みを感じぬと言われても身体には負担がかかります……今から引き抜きますが……身体を強く持ってください……花灯の籠の番人右手……頼みます」
「わかりました……根音、根子……私の手をしっかり握っていておくれ……そなたらが居れば私は大丈夫だ」
「「清さま……」」
根音と根子はしっかりと清の手を握った。痛みはないが震えがくる。確かに身体は悲鳴をあげていることには間違いないのだろう。後ろから花天照と花水鏡が清を動かぬよう固定する。花翅と花霧が引き抜こうとする花灯の籠の番人右手を補助する。
「清さま……いきます」
花天照が合図をすると貫いた垂木を一気に引き抜いた。するどい刃ではないため、それは肉が抉れていく気がした。その刹那な、なんとも形容し難い音が清の耳に内から響いた。身体を貫いた違和感がなくなる。しかし、驚いたことに垂木が引き抜かれた後、血は少しばかり流れたほどで自然と止まった。まるでかすり傷のような血の量だ。だからといって傷口はふさがったわけでもふさいだわけでもない。ただ血が流れないという異様な光景だった。
「ほら……やはり痛みはない……これも根音と根子のおかげです……」
清は二人に微笑む。二人は傷口をじっと見ていたが我に返る。
「そ、そうだよ……俺たちがいれば大丈夫、なぁ、根子」
「も、もちろんよ。これからも私たちは清さまの側におります……どうか痛みはなくとも今は休んでください……お願いします」
「わかった……みんな本当に申し訳ない……私の未熟さに、みなに心配かけたこと……」
清は頭を下げた。
「とんでもない。頭をあげてください……清さま」
花天照は清に自らの衣をかけた。
「根音、根子、後は頼みましたよ。もし何かあれば私たちは駆けつけます。いつも清さまの側におりますので……」
そう伝えると花天照たちは根音と根子を残し消えていった。二人は清の手を握り締めたままだった。
──私は……私の身体は本当にどうしたのだろう……? 少しの痛みも感じない……私は何を知らないのだろう? いや、痛みとはなんだろう? 痛みの記憶さえ私には思い出せない──
目を閉じ、痛みの記憶を探ろうとしたが、思い出す場面は、いつもあの忌々しい静の狂乱じみた姿からだった。それ以前の記憶を思い出そうとすれば黒い霞がかかり閉ざされ、辿り着くことはなかった。そして思い出す度に黒い憎悪が身体を巡る。それは快楽──その感覚だけはなぜかはっきりと心に残る清だった。




