38話
「花化従……すまぬ。迷惑をかけて……」
静が寝床で身体を無理に起こし頭を下げた。障子越しの陽が陰を落とす。静の表情をも曇らす。
「!? 静さま……もったいないお言葉でありんす。頭を上げるでありんす……」
花化従は慌てて静の元に寄り添う。静はふっと笑う。
「こんな姿でお前たちに申し訳ない……こんな姿で何が本懐か……笑うしかない……案外、脆いな我の身体……」
静は悔しさを滲ませ唇を噛む。
「静さま……大丈夫でありんす。わちきらは静さまの本懐を成すために共にあるでありんす」
「礼を言う……花化従……ところで花徒影は戻っておるか?」
すると花化従の影からするすると花徒影が姿を現した。
「花徒影、そちに偵べ人の役ばかり……すまぬな……」
「と、とんでもないことでございます、静さま! もったいないお言葉……かまいませぬ、我々はいつ何時も静さまの手足でございます……静さまの命ならば……」
いつも目を細め世界を見ている花徒影は頭を下げる静の姿に目を目一杯に開き慌てた。
──躊躇いはこの者どもを惑わす……なんとする! 我がこの程度の痛みに歪んでなんとする。永遠の久遠の生き地獄に比べればその風と同じなり……!──
陰を落とした部屋に突然の光が突き刺してくる。静の顔を照らす表情は一編の曇りなし。それは自らの意思で振り払った強き心。宿す瞳は神々しさを増す。
「何を驚いておる……花徒影よ……我はぬしらの主……本懐を求めぬ者にぬしらの主が務まるか……!!」
──足が震え、膝に力が入らぬ。それでも、立たねばならぬ。我の誇りを支えるために──
静は震える脚を掴み立ち上がる。気高くそれでいて美しく……。弱気己を打ち払うごとく……。
「静さま……相変わらず……叶わぬでありんす……」
花化従は三つ指を立て礼をつくす。
「花徒影よ……あの出来損ないはどうなった……? 我が愚妹の清は……? くたばるはずはなかろうが……きっと痛みも知らず息をしておったのだろう……?」
「はい……花護人たち、かの花根孖の二人に護られ、こちらに向かっております……」
静は笑う。
「やはり……そうか……次は……なんの因果かわからぬが……先ほどまでぼやけておったが……やはりそうか……『智』に『惑』者……皮肉なりな……ねぇ……先生……」
静は丸眼鏡をかけた男──孤風のいる部屋を指差した
「孤風先生……感謝すれど……その枯れた花の痣はあなたに終わりの時を告げているようです……」
自室で書物を読み、静の病を探る孤風の左手の甲には花紋様の痣が浮かびあがっていた。




