35話
「線香花火、蕾の舞い──」
零闇は生まれてこの方、光が目に映ることはない。その分、心にその者の心が映る。確かに清の心には決定的なものが足りないとわかった。何が足りないのか……そもそも生きているのか? そんな疑念が沸く。確かに人としての温もりもある。水鏡に映された清に何かを感じながら徐々に浄化されるものを感じた。
二つ目の蕾が開き始めた。そこから蝶の羽を持つ羽翅が姿を現し、翅を揺れ動かす。
「牡丹の舞いに候──」
軽やかに舞い落ちてくる瓦礫を躱すように舞う。しかし清はその舞を一喝し声を荒げる。
「羽翅っ! しっかりと舞うのです……礼を尽くさず何が花護人ですか!?」
「御意! 申し訳ありません……清さま……」
今まで崩れ落ちる瓦礫を躱し続けた花翅は躱すことを止め激しく舞った。翅が傷ついていく。最後の力を振り絞り舞終えると花根孖の根音と根子が姿を現す。
「「松葉の舞──」」
根子が零闇の陰に寄り添い、根音が想いの根を支え舞った。
「根音、根子……私の命より最優先は零闇殿に生きた証の希望を持たせ仕舞うこと。それをゆめゆめ忘れることなかれ──」
「「畏まりました……清さま……」」
零闇は温もりに包まれる。崩れ去る屋根から光が差し込む。
舞い終わると花霧が揺らめきながら姿を現した。
「柳の舞、ご覧あれ──」
霧のように姿を定めず、零闇を導くように舞う。迷いを霧とともに祓い徐々に姿を現し、最後の花護人花誓に舞を引き継ぐ。
「散菊の舞を──」
誓いの記録を持ち零闇の覚悟を刈り取るように舞う。そして誓約書を掲げた──文字が光輝くと同時に花天照が天に指差す。
「清さま……花結の言葉を……すべては今……結びにて終ります。刻がありませぬ……」
清が舞う──『礼』をつくすため……まだ見ぬ終わりを知るため……花結の言葉を唱えた。
──うやまう心に宿るは、静けさの中の力。 無言の教えに従い、咲く花こそが、真の美しさ──
花霊々の舞の終わりを迎える。
「これにて花結、締結──」
花灯の籠の番人が持つ線香花火の玉が静かに落ちる。
「終わりました……」
膝を落とし両手を突き肩ど息をして呼吸を整えようとした時……
ガシャン──ガラガラガラ──
舞終えた清の頭上から瓦礫が清を押し潰すように降り注ぐ。
──清は瓦礫に埋めつくされた。
完全に崩れた礼尊寺、本堂には外の明かりが容赦なく降り注いだ。そして、消滅しようとする零闇。
遠くから見つめる人影は何も言わず崩れた本堂を傍観していた。




