34話
「そこまでして……未来を断つか……」
零闇はポンと膝を叩いた。礼尊寺が揺れ動く。埃が舞っている。
「時間のようだ……左手が熱い……」
零闇の手の甲の花紋様が消えかかる。
「もう、時間がないようだが……どうする? この本堂もすでに崩れ欠けている。それでも舞うか……清殿?」
零闇の命が尽きようとしているのがわかる。
「今までのこのような個の私情に付き合い頂き感謝しかありません。しかしながら花仕舞師として私の本分を全うするのが役目、例えこの本堂が崩れようとも仕舞えるまで私はやめません。『礼』は尽くしまする」
零闇は清の花仕舞師としての覚悟を受け取った。
──見よ、我が手にしょせぬ光。奪いし花のように、誇り高き罪を背負わん──
零闇は手を合わせ、祈りの言葉とは思えぬ言葉を吐いた。零闇は思い出していた。静と顔を合わせ仇花霊々の舞を舞う際に花現身と称し舞始めた言葉を……。
「誇り高き罪……静殿と清殿の罪……どちらが『傲』か……そしてそう感じる手前は……」
懐に手を入れあるものを握り締める。
──時間の限りが尽きる時、静殿はこれを清殿に手渡して欲しいと言われた。それが何を意味するかはわからない。しかし……さぁ……これで手前の時も戻り、仏に還る時……──
「根音、根子時間がありません。舞の準備を……」
「「畏まって候──」」
零闇は清の姿がぼんやりと浮かんでいる。それは心の目に焼き付いていく。清が線香花火を取り出す。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
清が声高く宣言する。その声にさらに梁が音を立てる。崩れる瞬間が目に入る。しかし、揺らぎなく清は舞続ける。覚悟を揺るがせない足元。不安定な床をものともしない軽やかな足の動き。
光輝き花天照が清の元に降臨する。翼を広げると風圧が発生に崩れが増す。
「清さま……これでは……舞うまいに崩れ落ちます」
「かまわぬ、続けろ……それが舞師の宿命……それに知っておろう。いかなる理由があっても一度舞えばそれは止めてはならぬ」
清が強く一喝する。
「灯せ……花天照……この線香花火に……火を……」
掲げた花火に花天照は息を吹き掛けた。火が明るく灯る。
「花灯の籠の番人右手、此を──」
地響きが鳴るように地中から一体の花護人が現れる。本堂が崩れ始める。
「何があっても護り抜け……この灯火……零闇殿の『礼』に応えよ、花灯の籠の番人右手」
線香花火を受けとると、その言葉に応えるように無言で崩れ落ちてくる瓦礫に身を盾にして灯火を護る。
「清殿の言葉のままに……」
花天照は再び翼を広げ天に舞う。光輝くと同時に清は花霊々の舞い軽やかに始める。花天照の身体から五つの弦が床を突き破り、地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
「礼に尽くすか……」
零闇は見つめる。清の凛とした姿が脳にくっきりと姿を現す。
清が舞いながら零闇に花告を詠みあげる。
──うやまいの手は、触れぬままに、魂を抱いた──
崩れ行く本堂の中で壮絶に舞う清。一つ目の蕾が花開き、床が湖面の鏡として映る。水の波紋が広がり、そこから水鏡の衣を纏う花水鏡が現れた。床は跳ね上がりすでに戻ることはもうできない。それが清の花仕舞師の覚悟。




