33話
「いかがなされた……零闇殿?」
唇を歪める零闇に清は問いかけた。
「いや……何も……そのまま話を……」
幼子の穏やかな陰はすでに恐怖でしかなかった。
──いったいなんだと言うのだ……この無言の穏やかな威圧感は……──
「そうですか。そしてその後の光景に絶句しました。伏せたまま背中と喉元から血を流し血の海に沈む母、晴の姿……奥の部屋では喉を切り裂かれ、心の臓を貫かれた姿で目を見開き信じられぬ光景に絶望したと思われる父……これを地獄絵図と言わずなんとひょうげんすればよいのでしょう……」
感情とは別に清の言葉は滑らかだ。もう、零闇の言葉は失われていた。ただ頷くだけである。
「そして、父の手にはある舞の書が握られていました……それこそが『花切の契』の舞の方法と念を押された言葉が記されていました」
清はその記を思い出しながら言葉を語り続けた。
──永遠の断絶を望む者に舞えば永劫に心は縛られる。解く術なし。死の先にすら交わることは断じてなし……今一度心に問え、一時の感情に惑わされるなかれ。それが許せる存在ならば我を呼び出すことなかれ──
「私は何度も何度もその問いに答えを導こうとした。一時の感情に惑わされぬまいとした。しかし、思い出せなかった。姉さまとの記憶はなぜか黒く塗りつぶされていた。そしてそこには愛も哀もない。靉靆が漂い憎悪の雨のみだった」
清は笑いだす。
「その時悟ったのです。私は姉さまに抱くものは『花切の契』こそ相応しいと……」
零闇は固唾を呑んで見守り、根音と根子は清の浅ましき言葉の数々に耳を塞ぎ目を瞑った。そして清は過去に舞ったことを伝えた。
──契りの時──
清は静かに佇んでいた。書を開き呼び出しの言葉を見つめる。深い息を吸い決心の目を開く。
──永遠の断絶を契を望む者が舞う。その揺るがぬ意思を汲め、花切の契──
清は舞を始めた。永遠と思える時間を舞続けると、その想いを汲んだように届かぬ光の先から異形の存在が姿を現した。花とは名ばかりの恐ろしき髑髏の姿。
「我は花切。未来のそなたらの姿……この姿になったとしても断たれた気持ちは巻き戻らない。この花切鋏を使いすべてを断ち切れ……」
花切は漆黒の色をした鋏を手渡した。
清の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。そして清は手渡された花切鋏をその光に鋏で挟んだ。
「さぁ……切れ……断絶を願う者……」
清はゆっくりと鋏を動かす。そして──
シャキン──
「ここに花切の契、締結。これにて永遠の断絶成立なり……」
その過去を打ち明けた清。そして零闇は清の深い、深すぎる想いを黙って受けとるしかなかった。




