32話
「滲み出ている……そうですか? 逆にそう視えるのであれば喜ばしい限りです。私が生きる意味が満ちているということ……」
清は頭をもたげていたが、零闇に対して微笑む。狂気を孕んだ清。滲み出るものではない。溢れだしている。清の魂の器では足りない。いや欠けている。
清の言葉は落ち着き払っている。清は過去の静の謀反を、壮絶な過去を話した。話せば話すほど怒りは込み上げてくる清。しかし零闇には喜びの感情さえ抱く清に矛盾を感じる。暫く沈黙したのち、零闇は重い口を開いた。
「清殿……もし、目的を達成して、その先は何を見据えていらっしゃる? 憎悪の炎はそこで墨になってしまいますぞ……その墨は黒く漆黒の闇が清殿を包む」
零闇は静の言葉を思い出していた。
──我が望む先の漆黒の闇は承知……その覚悟なき者が仇花を舞うことは不可能でございます──
清は言葉を詰まらせる。考えてはいなかった。清は無意識に手を宙に伸ばそうとした。しかし、その指先が震えていることに、彼女自身が気づいていなかった。何もないものを必死で掴もうとしたが虚しく空を切るだけだった。
「その先は……」
清の詰まりに零闇は正気を取り戻した。
「憎しみ以外の感情を忘れた者に仕舞えるほど容易いものではないはず……」
「しかし、手前は姉君に対し『花切の契』を交わしております」
「『花切の契』? それはいかなるもので……?」
重く響く初めて聞く言葉にまた零闇は真実の扉を垣間見ることになった。
「『花切の契』それは宿一族にのみ存在する重い契でございます……この契がある限り、いや私が望んだ契のおかげで先を考えずに済むのかも知れませぬ……」
言葉の重みに床はずしりと沈む。これはただの問答に非ずと感ずる零闇。
「姉さまの狂気の刃に貫かれ目を覚ますとそこにはこの者共、根音と根子は私の手当てをしておりました」
背後の二人をそっと見つめ零闇は視えぬ目で二人を見つめた。
「人外なるものか……」
「はい……お陰で私は生きております……この子らの不思議な力は私をこの世に繋ぎ止める綱のようなもの……」
「綱のようなもの? はて……」
零闇は少し戸惑った。人外の気配は確かに感じる。しかしそのような力は視えてこない。
「清殿……そのような……」
言いかけた瞬間、清の背後から威圧するような視線を感じる。それは『余計な言葉は無用』と言わんばかりの強い光だった。零闇はそれを探ろうと試みると零闇の心に地中から根が張り零闇を縛り付ける。恐ろしさを感じ零闇が口を紡ぐとその警告の光は消え去り、あまねく穏やかな人外の陰二つ、幼子の陰のみが残った。




